バイパスの吻合後にグラフトの評価を行っていると思います。
現在、最も普及していると考えられる術中グラフト評価法は、MediStim社のtransit-time flow meter(TTF)です。当院でも使用しています。
毎回測定を行っていますが、画面を見ながら平均流量を見て『ふむふむ大丈夫そうだな』とは思いますがどのくらいあれば、グラフト吻合が良いと評価するのかよく理解出来ていませんでした。
そこで流量計の観るポイントをまとめていきたいと思います。
計測画面を見るポイント
①acoustic coupling indicator(ACI)
②平均流量(mean)
③拡張期充満率 diastolic filling(DF)
④拍動指数 pulsatility index(PI)
⑤逆流量 backward flow(BF)
項目 |
基準 |
①acoustic coupling indicator(ACI) | 緑色51%~100% 正確に測定できる |
②平均流量(mean) | 15ml/min以上 |
③拡張期充満率 diastolic filling(DF) | 60%以上 |
④拍動指数 pulsatility index(PI) | 5.0以下 |
⑤逆流量 backward flow(BF) | BFが多いと末梢血管抵抗が大きい |
・グラフトが開存していれば、高い拡張期充満率(DF)と低い拍動指数(PI)が得られます。
・心電図同期を使用して拡張期の流量百分率(DF)が算出され、グラフトが開存していれば高い拡張期血流量(DF)と低い拍動指数(PI)が得られます。
・平均流量はグラフト機能の正確な尺度で、流量が少ない場合に、流出量の少ない領域、血管攣縮、グラフトの欠陥を識別できることは重要です。
各種指標
心電図に同期させ、収縮期はピンク、拡張期はブルーの曲線を確認します。
良好に開存しているグラフトは、一目で拡張期優位の血流曲線が確認できます。
1.acoustic coupling indicator(ACI)
オレンジや黄色は音響結合が不十分なので、緑色の表示を確認します。
2. 平均流量(mean)
・15ml/min以上が望ましいですが、target vesselの狭窄度や測定時の血圧に影響されます。
・吻合直後だけでなく、異なる時期の測定が重要です。
3. 拡張期充満率 diastolic filling(DF)
・拡張期流量を1心周期流量で割った数字です。
・通常、60%以上の数値が得られます。
4.拍動指数 pulsatility index(PI)
・(最大流量-最小流量)/平均流量の値です。
・通常5.0以下の数値が得られます。
5 .逆流量 backward flow(BF)
・血流波形でマイナスに表示される流量。
・プラスをforward flowとして、%BF(backward flow/forward flow)を指標とすることができます
血流測定 典型的な血流パターン PI :5.0以下
前壁領域(LAD領域)
・拡張期流量(DF値)が65%~80%程度
・拡張期優位の血流パターン
・側壁領域に比べると割と緩やかな拡張期ピークフロー
側壁領域(OM、PL、LCX領域)
・拡張期流量(DF値)が60%~75%程度
・拡張期優位の血流パターン
・側壁領域に比べると、割と急峻な拡張期ピークフロー
後壁領域(RCA,4PD、4AV領域)
・拡張期流量(DF値)が50%程度
・ピークフローが2層的なデュアルビートパターン
・収縮期にピークフローが出る血流パターン
短期間で閉塞が危惧される血流パターン PI:5.0以上
収縮期(赤色部分)のみの血流パターン
・キンク・ツイスト・吻合部狭窄や、グラフトの長さ不足等が考えられます。
・ITAの場合は剥離不十分で引っ張られている可能性があります。
・開胸器を閉じて再測定をおこないます。
収縮期(赤色部分)がマイナス流量のパターン(フローコンペティション)
・冠動脈ネイティブフローが強く、グラフトへの逆行性の血流が存在します。
血流が安定していないパターン1
・解離や血栓が存在する、または、グラフト内径が不十分です。
・ITAの場合は剥離不十分で引っ張られている可能性あります。
・開胸器を閉じて再測定を試みます。
血流が安定していないパターン2
・軽度のスパズムが考えられます。
・塩酸パパベリン等で解消を試みます。
評価の注意点
1 グラフト流量の読み方
・グラフト平均流量は、測定時期や部位によって変わることに注意が必要です。
・吻合直後には反応性充血(reactive hyperemia)の影響で、高い数値が出ることがあります。
・On-pumpとoff-pump CABG(OPCAB)でも違いがあり、左前下行枝以外の領域では、on-pump心停止下での吻合がOPCABでの吻合よりグラフトの種類を問わず、グラフト流量が多くなります。
・心停止下手術では心筋虚血の影響で冠拡張傾向にあることが一因とされるという意見もあります。
・グラフト起始部と吻合部位近くでの測定では異なった数値が出ることが多いです。
・左室駆出率、年齢、性差、sequential bypassの吻合箇所数にも影響されます。
・性差については、男性では冠動脈径が太く、左室心筋重量が大きいためにグラフト血流量も多いと考えられています。
・橈骨動脈や胃大網動脈では、スパスムの影響やグラフトの径とプローベのサイズのミスマッチで信頼性が低い結果が出ることがあります。
2 波形およびPIの評価
・拡張期優位の波形の確認やPIは重要な指標です。
・左右の冠動脈領域でも異なり、右冠動脈領域へのグラフトは、左冠動脈領域へのグラフトに比し、拡張期優位の波形が得にくく、PIが高く、平均流量が少ない。
・PIは、左冠動脈領域で3以下、右冠動脈領域で5以下が、安心できる数値です。
・%BFが多いことは、末梢血管抵抗が大きいすなわち血流競合が問題であることを意味します。
・術後急性期には開存を認めても、早期/中期には、グラフト不全となる可能性が大きいことを示唆しています。
3 snare testやフーリエ解析(周波数解析)
native flowとの血流競合で、流量が少ないことがありますが、クランプテストが有効です。
吻合部の中枢側をクランプして血流量の増加やPIの減少がみられれば、血流競合が原因であることが確かめられます。
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参考引用文献・資料
・MediStim簡易マニュアル
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