脊髄くも膜下麻酔とは?
- くも膜下腔に麻酔薬を注入する方法です。
- くも膜下腔に投与された局所麻酔薬は、髄液と混ざって広がることによって、脊髄神経根の神経繊維を遮断します。
- 神経周囲に直接作用するため効果発現が迅速で、強い麻酔作用で知覚神経と運動神経を麻痺させます。
脊髄くも膜下麻酔はさまざまな呼び方があります。
- 脊椎麻酔
- 腰椎麻酔(腰から針を刺すから)
- もっと短くして、脊麻 、腰麻
- 英語では、spainal anesthesiaというのでスパイナル
- ドイツ語では、Lumbalpunktionというのでルンバール
- 一般的には下半身麻酔
いろんな呼び名が飛び交いますが、どれも脊髄くも膜下麻酔のことです。
適応
- 脊髄くも膜下麻酔は主に下半身全体に効くので、下腹部や下肢の手術に使用します。
- 下腹部手術時間が2時間程度までの手術が適応です。
- 下肢の骨折、静脈瘤手術、婦人科の手術(帝王切開や子宮鏡)、鼠径ヘルニア、痔、泌尿器科のTUR手術など
禁忌
- 穿刺部位が感染している時
- 出血傾向がある時
- 体位が取れない、患者の協力が得られない
- 脳圧が亢進している
脊髄くも膜下麻酔の手技と特徴
穿刺部位(針を刺す場所)
- 基本的に腰椎の3番目と4番目の間(L3〜L4)に穿刺します。
- 脊髄末端は、第一腰椎(L1)の付近にあります。それより下は、髭のような馬尾神経(ばび神経)になっています。
- 脊髄本管がある場所での穿刺は、脊髄損傷のリスクがあるため、腰椎の2番目〜5番目の間で穿刺します。
- 手術部位によって選択されます。
刺す深さ
- 脊髄の外側の硬膜を破り、くも膜化くうへ到達します。
- くも膜化食うは、脳脊髄液(髄液)で満たされているため、髄液が流出してきます。
- 髄液の流出を確認したら、2-3mL程度の局所麻酔液を10-15秒ほどかけて注入していきます。
麻酔の効果と回復
- 2〜3時間程度の効果があります。
- 麻酔薬の効果により痛覚は遮断されますが、それには順番があります。
- 神経が遮断される順番は、交感神経→温覚→痛覚→触覚→圧覚→運動神経
- 触れる感覚があっても、足が動いても痛みはありません。
- 足が温かく感じる→ビリビリと痺れを感じる(正座から立ち上がったような感じ)→動かなくなるという順番に麻酔効果が現れます。
- 回復はこの逆で、患者の下肢の運動が戻り、次に感覚が戻り、最後に自律神経機能が回復してきます。
- 下肢が動き出したら、麻酔から回復してきている証拠です。
- 次に患者は、痛みを訴え始めます。
- そして、自律神経機能が回復したら、内臓機能が回復したら食事可能となります。
麻酔範囲の確認
- デルマトームに従って判定します。
- デルマトームとは、脊髄神経の何番がそれぞれどの部位の皮膚を支配しているかを示した図のことです。
- 迅速に麻酔レベルが判断できるように、乳頭Th4 、心窩部(献上突起)Th6、臍Th10は覚えましょう
麻酔範囲
- Th5 :子宮全摘、帝王切開、虫垂切除
- Th10:鼠径ヘルニア、経尿道手術(TUR) 、下肢の手術(ターニケット使用)
- Th12:下肢の手術
- S2 :肛門
効果判定方法
- ピンプリックテストとコールドサインテストがあります。
- ピンプリックテストは、針など尖ったものを皮膚に当てて、チクチクすルカを尋ねて、痛覚刺激を感じるかを調べます。
- コールドサインテストは、アルコール綿や保冷剤を皮膚に当てて、冷たいかどうかを尋ね、温覚の消失を確認します。
- 通常、冷覚が消失していたら、その部位まで麻酔は効いていると判断します。
- 触覚は残る事が多いため、正常部位との比較が重要です。
使用するお薬
- ブピバカイン(商品名:マーカイン)を使用します。
- 赤いラベルの高比重と、緑のラベルの等比重があります。
- 高比重マーカインは脳脊髄液より重く、等比重マーカインは等しいと書いてありますが、実際はわずかに軽いという性質があります。
- そのため、高比重マーカインは、脳脊髄液より重く、低いところに流れます。等比重はその逆に上側に移動します。
高比重の特徴① 薬液の広がり方
- 通常使用する時は、高比重マーカインを使用します。
- 仰臥位の場合では、生理的湾曲に応じて広がります。
- 第5胸椎が最も低く、第3腰椎が最も高くなっています。
- 仰臥位ではL2〜L3穿刺では、頭側に広がりやすくなります。
- L3〜L4以下の穿刺では尾側に広がりやすくなります。
高比重マーカイン特徴②体位によって効果範囲をある程度調整できる。
- ベッドの頭側を高くすれば、麻酔薬は下半身に流れるので、下半身によく効きます。
- 麻酔の広がりが不十分な時は、頭を低くすることで、頭の方に麻酔範囲を広げる事ができます。
- 麻酔レベルが固定されるまで、10〜15分かかります。この間に手術台を調整して、薬液を異動させ、麻酔範囲を調整します。
高比重の特徴③ 等比重より効果が早く出て、効果時間は少し短め
- 高比重の方が等比重より効果が早く出て、効果時間は少し短めです。
- すぐに効果が出るということは、脊髄くも膜下麻酔直接に血圧変動も大きくなりやすいです。
- 血圧が下がる事が多いので、血圧即測定の間隔を短くして、バイタルサインの変動に注意が必要です。
等比重マーカインの特徴① 薬液の広がり方
- 足の骨折手術でよく使用されます。
- 重力に関係なく投与量に応じて薬液が広がり、調整性はあまり良くありません。しかし、手術部位を上にする手術や骨折などのように、穿刺時に骨折側を下にしづらい場合などに適応となります。
等比重マーカインの特徴① 薬液の効き方
高比重と比べて効果発現が遅く、麻酔レベルが固定されるまで等比重で15分〜30分かかります。
血圧低下も緩和であり作用持続時間が長いという特徴があります。
看護師の役割
介助するときに一番大切なのは、穿刺時の体位!
穿刺時にしっかり背中が丸くなる姿勢を取れるように介助します。
①背中を丸めつつ
②患者さんの背中とベッドの角度が直角で、脊椎が水平になるようにする
丸くなることで、脊椎と脊椎の間が広がり手技がしやすくなります。
- 穿刺部位を突き出すように、膝を腹部につけ、頭は臍を観て、海老のように丸くなります。
- 患者さんには、体操座りのように膝を曲げて、上の腕で膝を抱え、臍を観るように首を曲げて、背中を突き出して丸くなりましょうと伝えると伝わりやすいです。
穿刺部位の確認
- 医師によっては『腸骨稜を指指して』と言われる事があります。
→穿刺部位を確認するためです。 - 両側の腸骨稜を結ぶ背中の正中線をヤコビー線と呼び、その中央が、L4 またはL4-L5間腔のレベルが同定できます。
患者さんへの声掛け
- 患者さんは、自分では見えない背中で手技が行われるため、不安を感じたり、緊張でこわばったりします。
- 患者さんの不安な思いに寄り添い、声かけスムーズに手技が終わるように努めます。
薬液注入後の体位
- 薬液を注入した後は、術式に合わせて体位で麻酔範囲を調整していきます。
- 下肢静脈瘤の手術や、鼠径ヘルニアなどで片側のみ効果でよければ、局所麻酔注入後10分程度側臥位のまま維持します。
- 全体に麻酔効果が必要な場合は、局所麻酔注入後にすぐ仰臥位に体位を戻します。
- もたもたすると、反対側への麻酔の広がりが悪くなるため、医師から怒られます。安全に留意して素早く仰臥位に戻しましょう。
動画
脊髄くも膜下麻酔の合併症と対応
脊髄くも膜麻下麻酔は、麻酔科医師不在の当科麻酔で行われることも多くあります。 その時は、看護師が患者さんの状態を観察し、モニターを確認して異常を感じたときは、医師へ報告して、対応しなくてはいけません。 今回は、脊髄くも膜下麻酔の主な合併症、血圧低下、徐脈、悪心・嘔吐、呼吸抑制の原因とその時の対応方法そして、よくあ...
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