【解剖・グラフトの理解】冠動脈バイパス術(CABG)の手術介助②

心臓血管外科

冠動脈バイパス手術に付く前に後輩から質問されることが多いのが下記の2点です。

 

後輩
後輩

冠動脈に当てられている番号を覚えるのが苦手です。

後輩
後輩

OPCAB(LITA-LAD8)て書いてあるが(LITA-LAD8)は何を表しているのですか?

冠動脈バイパス術は、どこのグラフトを用いて冠動脈のどの部分に吻合するのかを理解する必要があります。動脈グラフトなのか静脈グラフトなのかで吻合方法や使用する糸が変わるからです。そして吻合する冠動脈の場所によっては、術野も麻酔科医もピリピリします。なぜ医師がそんなにぴりついているのかを理解することで、その場の空気を読み介助することが出来ます。

 

 

冠動脈の番号の覚え方

私も冠動脈の番号を覚えるのが苦手です。

冠動脈は大きく分けて3つ。①右冠動脈と左冠動脈:②左前下行枝③左回旋枝

番号は細かく覚えずにざっくりと覚えておくと記憶に残りやすいです。

①右冠動脈は:1~4

②左前下行枝:6~10

③左回旋枝 :11~15

中枢⇒末梢にむけて番号が大きくなります。

ターゲットになる冠動脈はだいたい同じなので手術についていくにつれて、だんだん覚えれるようになります。

教科書に載っている冠動脈の図にはHLは記載されていないことが多いですが、バイパスでは、HLはターゲットになることが多く、よく「ハイラテに吻合する」という言葉を聞きます。
HLとは、高位側壁枝(high lateral branch)の略語です。冠動脈は左主幹部(LMT)から左前下行枝(LAD)と左回旋枝(LCX)の2本に分かれていますが、患者さんによってはLADとLCXの間に、もう1本分岐している場合があります。この3本目の枝をHLといいます。

 

オススメの動画

感動! 冠動脈の解剖が分かる AHAの冠動脈の分類の暗記 心臓カテーテルを楽しく行うための勉強法 心臓専門医 米山喜平(Yoneyama, Kihei)

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米山先生が、難しい冠動脈を面白く教えてくれます。

41分15秒の長い動画ですが、AHAの冠動脈の分類の暗記方法は、2:28~7:20 5分程度です。

次に日にみんなに実演しながら話したくなります(笑)

冠動脈の血流

・左冠動脈は85%が拡張期に優位に、右冠動脈は収縮期に優位に血流を供給します。

・正常な冠動脈であれば、血圧が50~150mmHgの範囲内で冠血流量は一定に保たれています。

・冠動脈狭窄では、冠動脈は自動能が破綻しえいるため、冠動脈血流は冠灌流圧に依存します。虚血性心疾患患者では、冠灌流圧を上げることで冠動脈血流を維持することになります。

グラフト

動脈グラフトと静脈グラフトの特徴

バイパスに使用されるグラフトは大きく分けて動脈グラフト静脈グラフトがあります。

●動脈グラフト●
①内胸動脈②右胃大網動脈③橈骨動脈

長所

  • 採取した動脈が十分長ければ,冠動脈吻合部まで動脈を離断せずに吻合できる
  • 動脈硬化が少ないため,長期のグラフト開存が期待できる

短所

  • 動脈を採取することから,その末梢血流が悪くなる場合があるため,採取が可能かについては検討が必要

●静脈グラフト●

①大伏在静脈

長所

  • 下肢の表在を走行しており,採取が容易
  • 採取しても深部大腿静脈が存在するため,大伏在静脈を採取しても,機能障害は認めない

短所

  • 必ず血液供給血管との吻合が必要であり,吻合箇所が増える
  • 静脈には解剖的に静脈弁があり,弁が血流の抵抗となって開存率に影響を与える

それぞれのグラフトの特徴

HEART nursing 2013 vol.26 no.1(47)47より引用

 

内胸動脈(ITA)

・開存率が高いため、一番よく使用されるグラフトです。(開存率15年で90%以上)

・開存率が高く術後遠隔期の死亡率と罹病率ともに低下させます。

・ITAは鎖骨下動脈から分枝しているため、鎖骨下動脈が閉塞している患者の場合ITAも閉塞しており使用できないこともあります。

・両側ITAを使用した場合、胸骨への血流が減少するため術後胸骨骨髄炎になるリスクがあります。特に透析患者や糖尿病患者さんはリスクが高くなります。

・右内胸動脈を上行大動脈の前面を遮って冠動脈に吻合した場合、再開胸手術の時に誤って切断するリスクがあります。そのため、上行大動脈の後側を通して冠動脈に吻合した方が安全です。

右胃大網動脈(GEA)

・右冠状動脈領域に対する動脈グラフトとして、他の動脈グラフトの成績と比較し遜色はないです。
・8年後開存率90%以上

・胃への血流が減少するため、術後に吐き気や胃潰瘍など腹部症状を訴える患者さんもいます。

・胃癌になった場合、右胃大網動脈を切断するリスクがあります。(グラフトでGEAが使用されていると消化器外科の医師はとても嫌がる)

橈骨動脈(RA)

・1970年頃海外で盛んに用いられたが、スパズムに起因する早期血栓閉塞のため一度消えました。

・1998年にカルシウム拮抗剤との併用により復活したグラフトです。

・内胸動脈や右胃大網動脈と違い、freeの動脈グラフトです。

・中枢側は、上行大動脈や内胸動脈に吻合します。

・容易にスパズムを起こすことを念頭において使用する必要があります。

・SVG(大在伏在静脈)より長期開存が期待できるので、若年者に対しては両内胸動脈に続く第3のグラフトとして選択されます。開存率80%以上

・将来透析になる可能性のある患者さんは、シャントを作成するため使用できません。

大在伏在静脈(SVG)

・10 年開存率は 60 % 程度です。

・右冠動脈(RCA)領域に対する血行再建グラフトとして選択されます。

・動脈グラフトより口径が太く、狭窄度の軽いやや太目のRCA(#2、#3)には丁度良いです。

・長期の開存性が満足すべき ものではないため,現在は動脈グラフトが主流となっていますが、初期から用いられたグラフトであり,未だ に多く用いられているグラフトです。

・採取時に胸部 の術野を妨げないため,緊急でバイパスが必要になった時には第 1 選択となります。

・通常上行大動脈をその中枢側吻合部位として選択されます。その結果ほかのグラフトよりも高流量の血液を心筋に供給することができます。急性心筋梗塞や急性大動脈解離、大動脈弁手術で冠動脈の血流障害が疑われた際には、SVGによるバイパスを行うことが多いです。

採取グラフトの特徴一覧表

使用される血管 標的血管 長 所 短 所
動脈グラフト 内胸動脈
●左内胸動脈(LITA)
●右内胸動脈(RITA)
●左前下行枝、左冠動脈系
の対角枝や回旋枝
●左冠動脈領域
●弾性血管のため動脈硬化の進行が遅く(少なく)、長期開存が期待できる
●LITAは in situ graft として、RITAは free graft としても使用される
●10 年開存率は約 90 %
●採取する動脈の末梢血流 が悪くなる場合がある
(とくに糖尿病患者において、胸部正中創感染や胸骨骨髄炎などが起こりやすくなる)
橈骨動脈(RA) ●どの冠動脈領域にも到達 可能 ●約 17~20 ㎝ の free   graft が採取できる
●5年開存率は約 84~●88%
●採取前に Allen test を行い、尺骨動脈に血流障害がないか確認が必要
●遠隔期の硬化性病変や周術期のスパスムを起こしやすい
右胃大網動:rGEA(胃十二指腸動脈から分枝し、胃の代彎側を走行) ●右冠動脈後下行枝
●採取距離によっては LAD、左回旋枝まで 使用可能
●胃壁に向かう分枝切離により約 20 ㎝ のグラフト採取が可能
●遠隔期の開存率は約 70 ~80 % で ITAより劣るが、第3の動脈グラフトとして活用される
●胃の機能低下をまねくおそれがあり、開腹術の既往や胃潰瘍がある場合は使用できないことがある
静脈グラフト 大伏在静脈(SVG) ●中程度の狭窄

(90 %以下)の右冠動脈

●30 ㎝以上の free graft  が容易に採取できる
●その他の深部大腿静脈により、グラフト採取したことでの機能障害をみとめない
●粥状硬化により、 10 年開存率は 50~60 %であり、若年者に使用した場合には長期成績に問題あり

 

グラフトデザイン

術式にOPCAB(LITA-LAD8,AO-SVG-4PD)などとグラフトデザインが記入されています。

使用するグラフトと、吻合する冠動脈の場所の情報が入っています。

・LITA-LDA8は、LITA⇒左内胸動脈を使用して、左前下行枝8番に吻合するという意味になります。

・AO-SVG-4PDは、SVG⇒大伏在静脈を使用して、上行大動脈(AO)と右冠動脈4PDに吻合するという意味になります。

ターゲットになりやすい冠動脈

・冠動脈が閉塞した部位よりも末梢側に吻合するため、どこに吻合するるかは患者さんにの病態によります。しかし、長年手術介助についているとだいたいターゲットになる冠動脈は似ているように感じます。

・RCA(右冠動脈):#4PD、#4PL 

RCA に対する吻合は中枢(#1-3)に行うより末梢(#4)に行った 方が高い遠隔開存率を期待できます。末梢側にどうしても吻合するところがない時に#3などに吻合しますが、その場合は外シャントチューブを使用することもあります。

・LAD(左前下行枝): #8,#9(D1)、#10(D2

・LCX(左回旋):#14 、#15 

・HL(高位側壁枝)がある場合は、HL

基本的なグラフトデザイン

・医師の好みですが、どのグラフトを使用するかで基本的なグラフトデザインが変わります。
グラフトによって長さと太さが違うため、それぞれの特徴を生かした吻合デザインになります。

・左冠動脈領域 には 開存率の高いITA(右or左内胸動脈)を用いて、バイパスを行うことがゴールドスタンダードです。

・RCA(右冠動脈)には大伏在静脈グラフト(SVG)か右胃大網動脈(RGEA)が選択されます。

・LCX(左回旋枝)には内胸動脈(ITA)、橈骨動脈(RA)、大伏在静脈(SVG)が選択されます。

 

【グラフト:両内胸動脈(BITA),大伏在静脈(SVG)を使用する場合】

・RITA(右内胸動脈)-LAD(左前下行枝)8

・LITA(左内胸動脈)-LCX(左回旋枝)14

・AO(大動脈)ーSVG(大伏在静脈)-RCA(右冠動脈)4PD

【グラフト:左内胸動脈(LITA),大伏在静脈(SVG)2本使用する場合】

・LITA(左内胸動脈)-LAD(左前下行枝)8

・AO(大動脈)-SVG(大伏在静脈)-LCX(左回旋枝)14

・AO(大動脈)-SVG(大伏在静脈)-RBC(右冠動脈)4PD

LAD は最も遠隔期グラフト開存率を期待できる冠状動脈です。そのため、CABGの吻合の中でLAD(左前下行枝)が一番大切な吻合になります。
・医師の話では、カテーテル治療とCABGで長期成績で違いがあるのがLAD(左前下行枝)の吻合だそうです。RCA(右冠動脈)やLCX(左回旋枝)はカテーテル治療とあまり変わらないそうです。しかし、吻合出来るところは出来るだけ吻合した方が予後は良いそうです。そのため今でも、冠動脈に5~6ヶ所吻合することがあります。
しかし今後低侵襲化が進んだ場合は、MIDCABでLITA-LAD吻合を行いその他の冠動脈はカテーテル治療を行うということになるかもしれないと話していました。

参考文献

・循環器病の診断と治療に関するガイドライン虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン(JCS 2006)

 

 

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コメント

  1. たか より:

    こんばんは!
    いつも読んでます!

    新しい知識ばかりで勉強になります泣泣
    これからもよろしくお願いします!(笑)

    • ねずこ より:

      こんばんわ!
      たかさんいつもコメントありがとうございます。
      お役に立て嬉しく思います。
      心臓血管外科の手術は、消化器外科などと比べて資料が少なく学習しにくいと感じていました。
      心臓血管外科手術の好きな方、苦手な方と知識の共有が出来たらいいなと思っています。
      忙しいとなかなかブログが更新できませんが、これからもマイペースですが続けていきます。
      これからもよろしくお願いします(*^-^*)

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