大動脈弁形成術は、①大動脈弁輪の形成と②大動脈弁尖の形成と③大動脈基部の形成に分かれます。
今回は、大動脈弁輪と大動脈弁尖の手技と簡単な手順をまとめたいと思います。
1.まずは計測する前に必要部位に糸掛けをします。
1)大動脈を切開し、大動脈弁交連部の大動脈壁へ3ヶ所吊り上げをします。
4-0プローリンなどを使い3ヶ所支持糸をしま掛けます。
2)弁尖を合わせるために、弁尖の中央に6-0プローリンや7-0プローリンの糸を掛けます。
Valve sparing root replacement: the remodeling technique with external ring annuloplastyより引用
2.弁輪径、GH,eHの計測を行います。
1)弁輪径は、バルブゲージを大動脈弁に挿入して計測します。
2)GH( Geometric height)はゲージを使用して計測します。
3)eH(effective height)はSchafers Caliperを使用して計測します。
3.弁尖形成
1)弁尖縫縮術(central plication)
弁尖の逸脱に対する『弁尖縫縮術(central plication)』がType2の逸脱病変に対しての基本手技です。弁尖の接合不全を生じる状態に対して、弁尖の中央を少しずつ縫い縮めて弁尖の高さを調整する方法です。
5-0プローリンや6-0プローリンを用いて弁尖辺縁を単純縫合で縫縮します。
弁尖の長さを揃える事によりeHをすべて9~10mmに揃えることを目標にします。
重要なのは十分な接合面(4mm以上)を確保して3尖の高さを揃えることです。
縫縮した弁尖が長い場合は三角切除を行うことも考慮しますが、逸脱弁尖の辺縁以外の弁尖は薄いため縫合不全のリスクがあります。しかし、辺縁のみの縫縮では、弁尖の余った部分によって弁尖が変形し閉鎖不全が残ることがあるので、余った弁尖をマットレス縫合で縫縮する必要があります。
2)弁尖逸脱に対する自由縁全長の均等な短縮(Free Margin Resuspension)
CV-7などの糸を使用して自由縁の全長に掛けて縫縮します。
長さの調整が難しく、ごく薄い弁尖では損傷の危険性もあります。
3)パッチ閉鎖
感染性心内膜炎など炎症性病変を伴う場合は、感染や肥厚した部分、石灰化した部分を切除すると、弁閉鎖に必要な弁尖が不足する場合があります。弁尖の1部にとどまる場合は、修復可能です。その場合、補填材料としては自己心膜を使用します。
自己心膜をグルタールアルデヒドに5分間浸漬させて、生食で洗浄を行い弁尖に縫合していきます。
グルタールアルデヒドで処理をした自己心膜の強度は、通常の弁尖の約4倍の強度になると言われています。
Is repair of aortic valve regurgitation a safe alternative to valve replacement?より引用
4.下部弁輪縫縮術(annuloplasty)
External annuloplasty (外側から閉める弁輪縫縮)
弁輪が拡大すると弁尖の接合が不完全になります。弁輪を適切な大きさに縫縮する方法です。
基本的には弁尖サイズに適した弁輪径まで縫縮します。
左右の冠動脈の下を十分に剥離する必要があるので、大動脈は左冠動脈の起始部を一部残す程度に離断します。できるだけ弁輪近くまでバルサルバ洞を剥離します。
1)スーチャー法
ゴアテックス糸のCV-0を用いて弁輪の外側にタバコ縫合をかけて結紮します。
2)バンド法
左室内側から弁輪の外側に合計6針のプレジェット付きをマットレス縫合を行います。
縫縮用の人工血管またはテープをそれらの糸の間を通しながら冠動脈の下をくぐらせます。
術前に決めた大きさの大動脈サイザーを左室内に入れて、縫縮する人工血管の長さを決めてから結紮固定を行います。
形成後の術中評価は?逆流テストはどうするのか?
大動脈弁では、僧帽弁のような逆流テストが不可能なため目視で確認する肉眼的評価が重要になります。交連部にかけた糸に十分なテンションをかけて、弁尖を吸引管などで押しながら、弁尖辺縁の高さを確認します。正常なeH(effective height)の弁尖を参考として評価する。EFが保たれていても必ずしも接合がよいとは限らないことに注意します。
大動脈弁の接合の深さを相対する弁尖を攝子で挟むことで評価します。
大動脈弁遮断解除御はすぐに経食道心エコーで評価を行います。
参考文献
・Aortic valve repair and valve sparing procedures
・Is repair of aortic valve regurgitation a safe alternative to valve replacement
・Repair of aortic leaflet prolapse: a ten-year experience.
・Valve sparing root replacement: the remodeling technique with external ring annuloplasty
・心臓・大動脈外科手術: 基本・コツ・勘所
コメント