緊急大動脈解離での緊急手術で下肢まで解離をおこし下肢の循環障害がおきた状態で手術室へ入室する患者さんがいらっしゃいます。
文献では、大動脈解離では、DeBakeyⅠ型のような広範囲解離に下肢の脈拍の消失や虚血は7 ~ 18%の症例に合併する。虚血によりまず末梢神経が障害されるため下肢の疼痛や冷感があり,また循環障害としてのチアノーゼが見られると記されています。
【DeBaKey 分類】
事例)
CT検査の結果;上行大動脈から外腸骨にかけて大動脈解離を起こし、左右の総腸骨動脈は解離し、右外腸骨動脈閉塞している。
症状;下肢の痛みの訴え、運動障害あり。チアノーゼ、網状皮班、冷感、足背動脈触知不可 緊急手術のため急いで手術室に入室。
緊急手術で急いで救急室から手術室に入室した時は低体温になっている事はよくありますよね!身体が冷たいのですぐに温めてあげたい!!と感じる看護師さんは多いと思いますが・・・。
下肢がとても冷たくなっているので急いでベアハッガーで加温します!
ちょっと待って!!CTの結果に外腸骨動脈が閉塞してると書いてあったよ!運動障害まで出てるみたいだし。
・・・・???
下肢の血管が閉塞している場合、温めると熱傷を起こす可能性があるので安易に加温するのはやめてね!!
通常の熱傷
皮膚や皮下組織が蛋白質変性開始温度である42℃以上に曝露されることにより引き起こされます.
しかし条件によっては熱傷を起こさないはずの低温の温水マットや温風加温マットへの接触によっても熱傷が起こることが報告されています。
なぜ下肢の動脈が閉塞した病態だと低温熱傷が生じるの?
加温装置に異常がなく,42℃以下の適切な温度設定で、低温熱傷が生じるのは、局所血流障害と低温熱傷の関係が重要です。
体温よりも高い設定の熱源による保温では,通常は長時間接触しても熱が血流により局所から運び去られてしまうため,局所熱蓄積は起こりません。したがって,設定した熱源温度異常に局所温度が到達することはないため,熱傷は生じません。
ところが,熱源との接触部位の血流が傷害されるような状態になった時,長時間手術になればなるほど,時間と共に熱源接触部位に熱が蓄積され組織の変性を来たします。
このような状況では,熱源はたとえ42℃以下に設定してあっても,循環が悪いために熱の局所過剰蓄積が発生すれば,熱傷が引き起こされる結果となります。
例えば密封した袋の中に食材を入れて低温で調理する低温調理というのがあります。このように、閉塞された状態で低温で加温され続けると食材にだんだん熱が加わり加熱調理する事が出来るのと似ていると思います。低温調理は食材にもよりますが、40度から調理が可能です。
その他どのような術式で加温を気を付けたほうが良いか?
腹部大動脈瘤手術などで下肢の虚血の可能性がある場合のブランケット使用による低温熱傷の報告が発売初期の頃に各製造元へ寄せられ、大動脈クランプ時には下肢への温風吹きつけはオフにしておく事が大切です。
添付文書にも【禁忌・禁止】の欄に『大動脈クランプなどで、四肢の血管が遮断され、虚血状態になっている部位には使用しないこと。[熱傷を引き起こすおそれがあるため。]』と記載されています。
血管閉塞の病態以外でもどのような条件の時は加温を気を付けた方がよいか?
1. 長時間手術
2. 全身麻酔
3. 局所麻酔下でもブロック領域,意識障害時,麻痺のある患者
局所血流障害により、熱源との接触部位の血流が傷害されるような状態になった時,長時間手術になればなるほどリスクが高くなります。局所血流障害の原因は,長時間手術の場合ほとんどが圧迫です。
意識があれば,痛みが出てくるので,除圧動作が見られますが、全身麻酔中や局所麻酔下でもブロック領域,意識障害時,麻痺のある患者などでは寝返りがうてません。このため,容易にその組織に圧迫が生じることになります。全身麻酔下や意識障害時,薬剤による鎮静時には,体動が制限されると同時に知覚障害を生じているために,長時間同じ姿勢,同じ体位を取る結果となります。
低温熱傷を生じやすい患者とその部位は?
低温熱傷を生じやすい患者の特徴として,肥満,栄養状態不良,るいそう,高齢があげられます。
骨突出部位が手術台と接触する部に多く発生する傾向にあります。
部位としては,仰臥位の場合には後頭部,肩甲骨部,仙骨部,肘関節部,踵骨部など
側臥位では耳介部,胸部側面,大転子部などが,腹臥位では頬骨部,膝正面などです。
これらは褥瘡が高頻度に生じる部位でもあり,低温熱傷と判別が困難な場合も存在します。
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