腎臓動脈上クランプの時に冷却リンゲル液を注入するのはなぜ?
通常の腎障害のない腎臓であれば30分〜40分は阻血に耐えれるとされています。それ以上になると腎機能障害が生じます。
冷却することで酸素消費量が減少し、代謝も落ちるため、虚血再潅流障害を減らすことができ腎保護になります。
内部から冷却させるために腎動脈切開後に冷やした乳酸リンゲル液を腎動脈から加圧バックにて片腎に200〜500ml程度潅流します。注射器で注入することもあります。
遮断鉗子直下の腎動脈入口部にバルーンカテーテルを挿入することは難しく、潅流できないこともあります。
下腸管動脈(IMA)は再建しなくても大丈夫?
基本知識として、バックフロー(腹部大動脈から切り離した時に出血がある)が良好であれば再建する必要はありません。通常IMAは左右どちらかの内腸骨動脈で血流確保されています。左右内腸骨動脈、下腸管間動脈3本中1本あれば腸管虚血にはならないとされています。しかし、特にAAAの患者では将来も両側の内腸骨動脈の血流が保証されているわけではありませんので、再建できるものは再建しておいた方が良いと考えられています。
分枝を再建できることは開腹手術とステントグラフと比べてのメリットになります。
左腎静脈を結紮する時はどんな時なのか?
腎動脈上クランプ時に展開する場合に、左腎動脈を結紮する必要が出てきます。その場合2つ方法があります。
1:左腎動脈を切断する方法(腎機能が悪化する可能性はある)
2:左腎動脈に流入する副腎静脈・精巣静脈、腰静脈を結紮処理して左静脈を受動する方法
があります。
または、左腎静脈を損傷した場合結紮する時があります。
左腎静脈を結紮しても大丈夫なのか?
副腎静脈・精巣静脈、腰静脈が開存していれば結紮しても大丈夫です。
NOMI(ノミ)って何?
閉塞性腸管虚血症(NOMI: nonocclusive mesentericischemia)は器質的な血管閉塞は存在せずに、主幹動脈が開存しているにもかかわらず,腸管の虚血を来たし腸管壊死にも至る予後不良な疾患です。
AAAの術後の腸管虚血の発生率は3%と報告されています。
生じると死亡率は50%前後と高く、早期発見、治療が非常に重要な合併症です。
心不全,ショック,脱水,維持透析,周術期の低拍出量症候群等が誘引となる場合が多く,低灌流状態が一定期間持続すると末梢辺縁動脈の交感神経が反応して血管攣縮を引き起こし腸管 虚血が引き起こされます。
病変は左側結腸、特にS状結腸に生じることが多く、臨床的に無症候でも、内視鏡で確認すると
10%前後に生じるという報告もあります。
術後は典型的な腹痛を呈することが少なく、血性下痢も30%前後しかないとされ、疑われた際には速やかに内視鏡を実施することが推奨されています。
そして全層の壊死を認めた際には、速やかな開腹手術による腸切除、人工肛門増設、そして腹腔内洗浄の実施が不可欠です。
腸管虚血予防のための“定説”
・温存しているIMAは再建する必要がある。
・IMA断端から良好なbackfrowがある場合はIMA を結紮してよい。
・IMA閉塞例では腸管虚血はきたさない。
・IMA・両側IIAのうち最低1枝の血行を保てば腸 管虚血は起こらない。
・IMA・両側IIAの3枝結紮は禁忌である。
参考資料
・心臓・大動脈外科手術 基本・コツ・勘所
・ハートチームのための心臓血管外科手術周術期管理のすべて
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