心臓血管外科基本知識 開胸方法の種類

心臓血管外科

心臓血管外科 開胸方法

全胸骨正中切開は、40年以上にわたって心臓と大血管への標準的なアプローチでしたが、1980年代後半の一般外科に影響を与えた低侵襲革命は、心臓外科にも影響を及ぼし低侵襲アプローチの開発が進んでいます。最近では出来るだけ傷を小さくする流れになっています。

当院でも手術オーダーの術式に“Upper L ”や“Partial Sternotomy” と記述されており、後輩から質問されることが多いため開胸方法をまとめてみました。医師によっては、『MICS』を内視鏡を使用する手術のときに使用したり、小切開という意味でPartial Sternotomyでも使用したりと表現方法がまちまちなので、切開方法を理解したうえで確認した方が無難です。

小切開法のメリット・デメリット

メリット:胸骨切開しない又は、最小限の切開になるため胸骨骨髄炎(感染)のリスクが低減する
術後傷が目立ちにくくなる。
痛みの減少(しかし肋間開胸の場合は正中切開より痛みを訴える患者が多いらしい)

デメリット:心臓外科手術の高い技術が必要となる
トラブルが起きたときにすぐに対応できない。
視野以外でトラブルが起きたときに見逃してしまう可能性がある。(出血など)

全胸骨正中切開 :Full Sternotomy

標準的なアプローチで胸骨を上から下まで切開します。

医師によって上部から切り下げて切開する人と下部から切り上げて切開する人がいます

介助のポイント・上から下へ切り下げる時はストライカーの刃が下向きになるようにセットする。
・下から上に切り上げる時はストライカーの刃が上向きになるようにセットする。
刃の向きを変えなくても上手に使う医師もいますが、基本的には変えないといけないで怪我をしないように注意が必要です。バッテリーを入れる前にセットする方が安全です。

上部部分的胸骨切開(Upper Partial Sternotomy)

・胸骨を上部から下部へ切開し、第4肋間腔を右に逆L字型に切開する

・AVRでは、一般的に上行大動脈の視野を確保する目的で upper partlal sterlnotomyが選択されることが多いです。

デメリット
1.心臓全体を視覚化できない
2.心外膜ペーシングワイヤを留置しにくい又はできない
3.美容的な面で鎖骨が出るシャツでは傷が見えてしまう。

介助のポイント
・直接心臓に当てる内用DCパドルがはいらないので、術前に体外式のパドルを貼付するのを忘れないようにする。
・大人用ではなく小児用の径が小さい内用のDCパドルを一応準備しておく。
・トラブルが起きた時はFull Sternotomyにする可能性があるため、手術が終わるまでストライカーを不潔にせずに器械台に保管しておく。
・小切開用の小さい開胸器を準備する。
・ストライカーの刃が下向きになるようにセットする。

下部部分的胸骨切開(Lower Partial Sternotomy)

胸骨を下部から上部へ切開し、第2肋間腔から逆L字型に切開する。

介助のポイント

・内用DCパドルは小児用であれば挿入可能ですが、当院では一応体外式DCパッドを術前に貼付しています。
・大人用ではなく小児用の径が小さい内用のDCパドルを準備する。
・トラブルが起きた時はFull Sternotomyにする可能性があるため、手術が終わるまでストライカーを不潔にせずに器械台に保管しておく。
・小切開用の小さい開胸器を準備する。
・ストライカーの刃が上向きになるようにセットする。

左前側方開胸・胸骨下部部分切開法:ALPS(アルプス)
(antero-lateral thoracotomy with partial sternotomy)

左第3肋間or第4肋間を開胸し、この切開線を胸骨正中切開線まで延長し、胸骨下部部分切開を行う。

メリット

1.上行大動脈から弓部大動脈、そして横隔膜付近までの下行大動脈を同一視野に露出することが出来る
2.正中からのカニュレーションが可能である.
3.脳分離が可能

デメリット

1.胸膜剥離困難例がある.
2.術後呼吸機能の低下例が考えられる。

介助のポイント

・OLV片肺換気を行うため気管支ファイバーなどの準備が必要

・体位が右側半側臥位になるため体位固定具の準備が必要

・体外式DCパドルは貼付しなくて大丈夫

・術野展開のためにケント鈎を使用する

当院ではあまりこの切開法をしたことがありませんが、永久気管孔がある弓部大動脈瘤手術で全胸骨正中切開では術後の感染が懸念される症例と、下行大動脈瘤の位置が下の方にあった時に行ったことがあります。

 低侵襲小切開心臓手術:MICS手術(Minimally Invasive Cardiac Surgery )

術式によって肋間開胸の場所がかわります

・MIDCAB:左第4肋間前方開胸
・MICS-CABG:左第5肋間前方開胸
・MICS-AVR:右第3肋間前方開胸 、右腋窩下切開もある
・MICS-MVP ・MVR :右第4肋間前方開胸(乳房下切開)

いずれも術前のCTで評価して最適な肋間を決定するため、1肋間上下することがあります。

まとめ

小切開が増えてきたため術式が複雑になってきています。
開胸器や大動脈を遮断する器械が変わったり、送血部位・脱血部位なども変わってきます。
これから心臓血管外科の介助を習っていく方は覚えることが多く本当に大変だと思います。
習得するまでは大変ですが、介助が出来るようになると術者と一体感を感じ楽しくなります。
心からお応援しています。

コメント

  1. ぴか より:

    少し前からこのサイトを見つけて、全ての記事に目を通しているところです!
    手術室看護師3年目になります!
    心外のこと麻酔のこと改めて学び直すきっかけになります!
    特に心外のオペに関しては興味もあり何度も読んでます!
    ベントールとCABGについての記事もよかったらみてみたいと思ってます!
    これからも応援してます!

    • ねずこ より:

      ピカさんコメントありがとうございます。
      私のサイトが役に立てていることを知ることができてとても嬉しく思います。
      リクエストを頂けると記事を書きやすいのでありがたいですです。
      BentallとCABG承知致しました!
      また記事でまとめますね。

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