自己弁温存基部置換術『remodeling法』と『reimplantation』の違い

心臓血管外科

大動脈弁輪拡張症(annuloaorticectasia:AAE)に対する手術の歴史

大動脈弁輪拡張症(AAE)は,大動脈基部における拡張病変を主体とし,大動脈瘤,大動脈弁閉鎖不全,冠動脈不全などのさまざまな病態を呈し大動脈解離や破裂をきたしやすく生命予後に関わります。大動脈弁,Valsalva洞,冠動脈の再建が必要です。

AAEに対し,歴史的には人工弁付き人工血管を用いたBentall手術が行われてきましたが、人工弁関連合併症を回避するために1980年代後半に自己大動脈弁を温存する術式が開発されました。以後,症例の蓄積とともに成績は安定し,実施施設が増えつつあります。

1964年 Wheatらによる上行大動脈と大動脈弁の置換術を別個に行った。

1968年 BentallとDe Bonoがcompositegraft(人工血管に人工弁を縫い付けたもの)を使用して冠動脈を再建する術式を報告,本法がAAEに対する標準術式となった。

1979年 Yacoubがremodeling法を開始し,1992年にその成績を報告

1988年 Davidらがreimplantation法を発表

 

『remodeling法』と『reimplantation法』の特徴

自己弁温存大動脈基部置換術には、aortic valve reimplantation法とaortic root remodeling法に大別されます。どちらにも一長一短あります。

Remodeling法(Yacoub法)

Remodeling root repair with an external aorticring annuloplastyより引用

1)拡張したバルサルバ洞壁を切除

2)大動脈弁尖付着部に沿って残る弧状の大動脈壁と3つの舌状にトリミングした人工血管を吻合

3)冠動脈を再建

4)人工血管遠位端一上行大動脈断端吻合を行う。

remodelingの利点

手技が比較的簡便で,バルサルバ洞を作成するので血行動態が優れており、温存大動脈弁の挙動が自然なため,弁の耐久性を期待しやすいです。

remodeling法の弱点

Remodeling root repair with an external aorticring annuloplastyより引用

弁輪固定の欠如により弁輪拡大例では再発の懸念が残ります。

しかし、近年では遠隔期の大動脈弁輪部拡大の予防目的に,太いPTFE糸や短冊状のフェルトなどを同部に円周状にかけて補強する変法の報告もあります。

Reimplantation法(David法)

Valve Sparing Aortic Root Replacement (David Procedure)より引用

1)拡張したバルサルバ洞壁を切除

2)大動脈基部まですっぽりと人工血管をかぶせ,基部に人工血管断端を縫縮

3)バルサルバ洞の交連部を人工血管へ固定し、全周の辺縁を人工血管内側面に縫いつける

4)冠動脈を再建

5)人工血管遠位端一上行大動脈断端吻合を行う

reimplantation法の利点

縫合線が複数で止血を得やすく,大動脈弁輪部が人工血管断端で固定されるため,弁輪固定に優れており、遠隔期の弁輪部拡張の予防効果が高いことです。

reimplantation法の欠点

バルサルバ洞がなく弁の開閉が生理的ではないことと望ましくありません。

しかし、近年はバルサルバグラフトを用いたreimplantation法が行われるようになり欠点を補っています。

reimplantation法とremodeling法の特徴の一覧表

現在はバルサルバグラフトを用いたreimplantation法と弁輪形成を併用したremodeling法はほぼ同等のクオリティーを提供できるので、両者の差はほとんどなくなっています。

 

Marfan症候群患者においては大動脈弁輪の拡張予防効果の高さから,remodeling法よりもreirnplantation法が推奨されています。

 

大動脈弁輪拡張症(AAE)の外科治療に対しる自己弁温存大動脈基部置換手術の利点と問題点

AAEに対する外科治療のゴールドスタンダードは人工噛付き人工血管を用いた大動脈基部置換術〔ベントール(Bentall)手術〕であり,待機的手術においてはたいへん安定した手術成績が報告されています。しかし,このベントール手術には人工弁使用に関するいくつかの問題点がつきまといます。すなわち,機械弁においては生涯にわたるワーファリン内服が必須であり,この抗凝固療法中はつねに出血や塞栓症のリスクがあります。もう一方の生体弁においては,抗凝固療法を術後3~6カ月で終了できる利点がある反面,その耐久性に問題があり,10~15年での弁の交換を余儀なくされるとされます。これに対し,大動脈弁を温存する自己弁温存大動脈基部置換手術(valve sparing aortic root replacement:VSARR)は,これら双方の人工弁に関するデメリットを解決できる可能性を秘めた術式として編みだされ,過去10年ほどの問にわが国でも施行症例数が増加してきています。このVSARRのベントール手術に対する理論的な利点は人工弁関連合併症が減ると期待されています。問題点は、温存された大動脈弁の長期の耐久性と手術の複雑さです。

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