心臓血管外科の手術中には、略語や英語がよく飛び交います。

4PL吻合できそうならVeinでシーケンシャル吻合する

グラフトの長さが足りないからコンポジットで吻合する
このような言葉は、術中によく聞くと思います。
そのたびに後輩から不安そうに質問されます。

シーケンシャルって何ですか?何をするんですか?
今回は、冠動脈バイパス術でよく使用される用語について説明します。
Intact(インタクト)
ノーマル、病変なし、狭窄なしということです。
カンファレンスなどで医師が「コロナリーはインタクトです。」と言っていますが、それは「冠動脈は病変ありません。」正常・問題なしという意味です。
sequential吻合(シーケンシャル吻合)
シーケンシャル吻合とは、1本のグラフトで冠動脈に2か所以上吻合をすることです。
グラフトを節約できますが、逆にトラブルが起きるとそのグラフトが供給している冠動脈すべてがダメになってしまうため、被害が大きくなる可能性がります。
【AO-Vein-4PD-4PL吻合の場合】
Veinグラフトで4PLと4PDの2か所の吻合を行っています。
末梢側は端-側で吻合して、中枢側の方は側-側で吻合を行い上行大動脈へ吻合します。
composite graft(コンポジット・グラフト)
コンポジヅト・グラフトとは、2 本のグラフトを繋ぎ合わせて使う方法です。
メリット
・限られたグラフトですべての領域をカバーすることができる。
・上行大動脈の石灰化が著しく中枢吻合が困難な場合、in situ の内胸動脈と橈骨動脈や内胸動脈のfreegraft として組み合わせると,上行大動脈の操作を行わずにバイパス手術を行うことができる。
・LITA-RITA やLITA-RITA のcomposite graft は動脈グラフトによる血行再建を可能にし,良好な長期開存率が期待できる
デメリット
・Y Compositeの場合、あまり成績がよくない。特に静脈グラフトを中枢側in-situ ITA と吻合したY-composite graftは回避した方が良い。
・冠状動脈との血流競合が問題となることがあり、冠状動脈の狭窄度が緩い場合には注意が必要
種類
種類は I Composite と Y Compositeの2種類があります。
I Composite
LITAの中枢側を切り離し、RITAと端-端吻合で繋げています。
Y Composite
・RITAの中枢側を切り離し、LITAに端-側吻合を行いY字になります。
・それぞれのグラフトの末梢をターゲットの冠動脈に吻合します。
in situ graft(イン・サイチュ・グラフト)
鎖骨下動脈からの分岐している部分を切り離さずそのままにして,末梢のみを切断して冠動脈と吻合して使うグラフトをin situ graft(イン・サイチュ・グラフト)といいます。
in situ で使用する内胸動脈が,最も長期開存性に優れたグラフトとされています。
胃大網動脈もin situ での使用が可能です。
free graft(フリー・グラフト)
橈骨動脈や大伏在静脈など,血管の両端を切り離して使用するグラフトを「free graft(フリー・グラフト)」といいます。両側が切り離されているので,末梢側は冠動脈と吻合し,中枢側の断端は上行大動脈かほかのグラフトに吻合する必要があります。
内胸動脈もfree graft として使用することもあります。
spasm(スパズム)
胃大網動脈や橈骨動脈は、内胸動脈より血管壁の平滑筋が厚い構造となっています。このため,血管が収縮し内腔が狭くなる現象(spasm)を起こすことがあります。
スパズムは、グラフトの早期閉塞の原因となります。
これを予防するため,術中から塩酸ジルチアゼムなどのCa 拮抗薬を投与します。
完全血行再建(complete revascularization)
前下行枝,回旋枝,右冠動脈のうち,病変を有する領域に少なくとも1 本ずつバイパス吻合を行うことを,一般的に「完全血行再建」といいます。
string sign(ストリング・サイン)
動脈グラフトは静脈グラフトより長期開存に優れるため,若い患者さんや細い冠動脈枝に対して有用なグラフトです。しかし、吻合がうまくいってもバイパス・グラフトを流れる血流量が少ないと,グラフトが細くなりやがては閉塞してしまう性質があります。この“ やせ細り現象” をstring sign(ストリング・サイン)といいます。逆に,血流が多いグラフトは成長して太くなります。
aorta no-touch technique(大動脈の手術操作を行わない手術技法)
動脈硬化・石灰化した上行大動脈を手術操作することにより,血管壁のかけらが流れて脳梗塞
となったり,大動脈解離を起こしたりすることがあります。上行大動脈の手術操作を回避することは,特に術中のこれら合併症の発生を抑制します。
内シャントチューブ
吻合中の血行動態安定のために内シャントチューブを挿入します。
イメージとしては、冠動脈の中に小さいストローを挿入してその中を血液が流れている感じです。
いろんなサイズがあるため、血管拡張ゾンデでサイズを計測して適切なサイズを使用します。
毎回使用する医師もいれば、冠動脈中枢側を遮断した時に血行動態が不安定になると予測される症例のみに使用する医師もいます。
外シャントチューブ
・外シャントチューブも血行動態安定のために使用します。
・内シャントチューブとは違い血管内に挿入するのではなく、大動脈から血液を供給するルートを作り冠動脈に流すといった感じです。
・外シャントチューブ用セットもありますがあまり使用することはありません。
・当院では、心筋保護用ルートカニューレなどを上行大動脈へ穿刺して脱血し、通常では心筋保護液を流すルートへ外シャントチューブを接続して冠動脈へ送血する方法で使用しています。
・その他には、MIDCABなど上行大動脈穿刺が困難な場合は、FA(大腿動脈)に4Frシースを挿入してそこから脱血を行い、冠動脈へ送血する方法もあります。
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