三尖弁手術の基本知識

心臓血管外科

三尖弁手術の考え方

三尖弁はかつて「物言わぬ弁」とか「忘れ去られた弁」などとよばれ、治療の重要性については左心系の弁疾患に比べ強調されていませんでした。

三尖弁の治療が重要じゃなかった理由

それは三尖弁閉鎖不全症が、通常左心系の弁膜症や心筋の障害などに伴って二次性に生じる病態であることが多く、適正な左心系の弁の治療がなされれば、TRは自然に改善するものと考えられていたことや、右心系における左室の容量負荷の悪影響は左心系のそれに比べ緩やかに進行するからです。

三尖弁治療の現在の考え方

たとえ左心系の弁疾患が適切に治療されても、重要なTRが手術時に適切に治療されずに放置されれば、その2次性TRは時間とともに悪化し、術後のQOLやその生命予後にまで悪影響を及ぼすことが示され、また、中等度あるいは高度なTRの存在が肺高血圧症とは無関係に、単独で生命予後を悪化させる因子であることも明らかになりました。

三尖弁閉鎖不全症の病因とタイプ

器質的異常の一次性(器質性)

1次性TRにはリユマチ熱によるもの、Ebstein病、粘液変性、カルチノイド、心内膜炎、逸脱、外傷などがあります。その他ペースメーカーや植え込みが型除細動器のリードに伴うものや、右室生検など医原性のものも一次性に含まれます。

三尖弁に器質的異常がない二次性(機能性)

・右室の圧負荷(原発性あるいは左心系病変に伴う二次性肺高血圧症や肺動脈狭窄)

・容量負荷(心房中隔欠損症などシャント性心疾患)

・右室機能低下(拡張型心筋症、右室梗塞、不整脈源性右室心筋症)

・心房細動に伴う右心系の拡大による三尖弁複合体の2次的な形態変化によって引き起こされます。

・二次性三尖弁閉鎖不全症は、ほとんどがタイプⅠによるものですが、シビア三尖弁閉鎖不全症による高度な右心系の拡大を伴う症例ではタイプⅢbの要素も含まれます。

・従来から提唱されてきた2次性三尖弁閉鎖に対する三尖弁形成術はほとんどがタイプⅠすなわち三尖弁輪拡大に対する手技であるため、このような高度に拡大した右心系に伴う高度三尖弁閉鎖不全症に対しては、単に拡大した弁輪径を短縮する従来の方法では良好な結果を得ることができません。

・ペースメーカーリードが中隔尖に癒合し、その動きを制限しているような場合は、タイプⅠ、タイプⅢaであるので、この病変に対してタイプⅠを治療するリングやバンドを移植するのみでは三尖弁閉鎖不全症の制御が不十分になります。

三尖弁と三尖弁周囲の解剖

・三尖弁は前尖、後尖、中隔尖の3尖弁です。

・三尖弁と腱索と乳頭筋群、線維性の弁輪組織、右房と右室心筋からなる複合体です。

・中隔尖の弁輪接合部の近傍の右房壁内には房室結節、His束などの重要な刺激伝統系が存在します。

・大動脈弁の右冠尖と無冠尖の交連部が三尖弁輪に接しています。

三尖弁形成術の基礎知識

・Suture repair と リングによる弁輪形成術 があります。

・Suture repairにはKay法とDe Vega法の2種類あります。

・Suture repairは簡便で安価であるが、遠隔期の成績の再発が多いことが指摘されています。ring annuloplastyの方が、再発を減少させること、長期生存率や合併症の改善すると示されています。

・私は、この15年間でフィジオリングを使用するring annuloplastyしか見てきていないので、Suture repairを知りませんでした。滅菌されているけど全く使用していないSuture repair用のサイザーがあったのですが、使用しないので昨年廃棄しました。

Kay法

後尖および後尖弁輪を縫縮し三尖弁を2尖弁化する

De Vega法

最も拡大する後尖および前尖の弁輪部に縫合糸を掛け、三尖弁輪径を適切な大きさまで縫縮しサイザーを当ててしっかりと結紮します。

リングによる弁輪形成術

リングは、房室結節が隣接している中隔弁輪部分を含まないパーシャルタイプになります。

冠状静脈洞の入口部からも十分距離をとり糸かけを行い、リングを装着します。

三尖弁置換術の基礎知識

1.弁置換術は少ない

三尖弁はほとんどの場合修復可能なので、弁置換術はめったに必要となりません。しかし弁の変形が高度で形成術が満足できない場合には、弁置換術が必要となります。

2.三尖弁置換術で使用する弁は僧帽弁を使用する。

三尖弁用の生体弁はありません。そのため、サイズと留置場所が似ている僧帽弁用の弁を使用します。

3.中隔尖の近くに房室結節があるため房室ブロックになるリスクがある

中隔尖領域では、糸針は伝導系組織から十分離し、弁尖およびその支持組織のみに掛けて、房室ブロック発生を予防します。

しかし、房室ブロックが術後に発生した場合、心筋リードを留置します。昔、何度か留置したのを見た事があるのですが、心筋リードは、直接心筋にリードと植え込み、腹部にジェネレーターを留置します。ジェネレーター交換をするには開腹手術が必要になります。現在は、長い心筋リードがありそれをトンネラーで鎖骨下まで持ってきて、鎖骨下にジェネレーターを留置出来るリードもあるようです。

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