SAM(僧帽弁の収縮期前方運動)ってなに?

心臓血管外科

僧帽弁形成術後に人工心肺をウィーニングにして血圧が出てきた頃に執刀医が経食道エコーを行っている医師に「MRはないか?」と「SAMになってないか?」をよく確認していませんか?昔、SAMの意味が全然分からなくて、どんな病態なんだろう?と思っていました。

SAM(僧帽弁の収縮期前方運動)とは?

SAM(systolic anterior motion)僧帽弁の収縮期前方運動は、僧帽弁形成術に伴って起こる合併症の1つです。

僧帽弁が左室流出路(LVOT)の駆出血流に引き込まれる現象です。

左室流出路障害と僧帽弁逆流から循環不全を引き起こします。

当初SAMは、1960年代後半に肥大型心筋症(HCM)の特異的な病態として最初に報告されました。その後、僧帽弁形成術後でも多く報告されているようになり、最近では大動脈弁置換術後、コントロール不良の高血圧や糖尿病患性状者、急性心筋梗塞急性期、さらには心疾患のない正常人でもカテコラミン投与などでSAMは誘発されています。

このようにSAMは、集中治療領域ではより一般的にみられる現象として認識されつつあるようです。

SAMが起こる要因

1.左室や僧帽弁の構造問題

僧帽弁後尖弁尖の延長・余剰・小さな左室、隆起した心室中隔などがあげられます。

2.僧帽弁の形態的問題

小さめのリングを使ったこと、僧帽弁の前後径が短いこと、僧帽弁接合部と左室中隔が短いことなどがあげられます。

3.左室の動きに関する問題

高心拍出量状態(hyperdynamic state)な左室の動きがSAMを起こす要因となりうる。他に前負荷の不足、カテコールアミン過量なども要因となります。

SAMの発生メカニズムとリスクファクター

SAM発生のメカニズム

1.Venturi効果

最初に提案されたメカニズムはVenturi効果です。

左室左室流出路の狭窄のために駆出血流速度が高速となったために僧房弁前尖の中隔側の圧が低下して、前尖が左室流出路内へ引き込まれます。ところが、実際のSAMの流速の速くない収縮期にもすでに始まっています。さらには、外科的に中隔を削って血流速度が減速してもSAMが残存することがあるため、Venturi効果だけでは、メカニズムを十分に説明できないことが証明しています。

2.SAMのPre-positioning

心エコーを用いたより詳細な形態解析では、SAM発生時には僧帽弁前尖と後尖の弁同士の接合部が前尖側に変位し、前尖の先端に余剰部分が生じることが示された。

つまり、収縮期に血液が駆出される時点では、すべに余った僧帽弁前尖が左室流出路内を漂っていることになり、SAMにはこうした「Pre-positioning」とよばれる段階があります。

SAM発生時には、まず左室の解剖的特異性から、駆出血流が袋小路となった僧帽弁後尖の後面に誘導され、後尖を流出路側に押し出す。その結果、弁同士の接合部が前尖側にずれ、前尖に余剰部分が発生して、左室流出路を漂います。左室流出路に飛び出た前尖は駆出血流と衝突してSAMが発生します。

遮断解除したのちに、SAMになった時の対策

保存的対策

1.左室の動きを高心拍出量状態(hyperdynamic state)にするカテーコールアミン類を中止し、ボリュームを負荷して左室内腔を大きくしたうえで経食道心エコーによりSAMの改善を観察します。

2.フェニレフリン(ネオシネジン)投与、β遮断薬投与なども行われます。

3.術中になかったSAMがICUに戻ってから起こった場合には、多くはこれらの保存的対策で軽快します。

外科的対策

これらの保存的対策で軽快しなかった場合は、外科的な追加処置が必要になります。

後尖の高さが高すぎるために起こっている場合には、スライディングプラスティをはじめとした様々な追加手技が行われます。いろいろな手技を加えても最終的にSAMが

解消しない場合には、形成を諦めて弁置換術に移行せざる得ない場合もあります。

SAMの予防メカニズムと予防処置

 

 

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