最近は大動脈弁形成術の関心が高まってきおり、取り組む施設が増えてきています。
しかし、まだ分かりやすい文献も少なく、発展途上中の術式のため、いまいちよく分かりません。そこで学習して分かった情報をまとめました。
大動脈弁形成の現状
大動脈弁閉鎖不全症に対するがけ治療を要する症例は比較的若年者が多く、弁を温存するのが望ましいですが、弁膜症治療で重要なのは長期成績です。若年者に対する生体弁による大動脈弁置換術(AVR)と比較すると大動脈弁形成術(AVP)は良好な予後が期待できるが、機械弁置換にはまだ及ばないのが現状です。
大動脈弁形成術(AVP)自体は新しい術式ではありませんが、これまで良好な成績を収めることができず、広く普及するに至りませんでした。しかし1990年代に入り大動脈閉鎖不全症(AR)が軽度の基部拡大症例に対する温存基部置換術の良好な成績が報告されるようになり、その経験が基部置換を伴わない大動脈弁形成術(AVP)にフィードバックされるようになり、徐々に成績が向上するようになってきました。弁温存基部置換術後の大動脈弁に対する再手術回避率は機械弁Bentall手術と同等で生体弁Bentall手術より有意に良好で、出血合併症は逆に生体弁Bentall手術と同等で機械弁Bentallより有意に良好であると報告されています。
術者の大動脈弁形成術(AVP)の成績が安定するには40~60例の経験が必要だそうです。
AVPの適応目安
- 若年(一般的には生体弁の予後が悪い65歳以下)
- 弁尖の硬化・変性が軽度
- 弁尖に十分な長さがある。(一般的には三尖弁で16mm以上、2尖弁で19mm以上)
大動脈弁複合体の解剖
大動脈複合体とは、5つから構成されています。
①上行大動脈
②STJ(バルサルバ洞・上行大動脈接合部)
③バルサルバ洞
④弁輪
⑤大脈弁尖
大動脈弁輪
AVP で施行する弁輪形成は人工弁輪などで弁輪を縫縮して弁尖の接合を得ますが、弁輪を縫縮しすぎると狭窄症をきたすことがあります。過去の報告では術前の大動脈弁輪径が29 mm 以上で術後再手術のリスクが高くなるとされています。
バルサルバ洞
バルサルバ洞とは大動脈弁輪とSTJ の間にあるちょうちん状の構造をさします。AR をきたす症例ではバルサルバ洞が拡大している場合が多いです。AVP では弁尖およびバルサルバ洞のバランスを保ちつつ再建するため,それぞれのバルサルバ洞径を計測して弁尖のバランスを確認しておくことが重要です。
STJ(sinotublar junction)
STJ とはバルサルバ洞から上行大動脈への移行部のことをさします。大動脈弁輪径の拡大のみでなくSTJ 大動脈弁輪径比がARに影響することを理論的に示しています。STJ から上行大動脈に有意な拡大があれば人工血管に置換してSTJ 径を縮小することでテザリングの改善に寄与すると考えられます。
大動脈弁の弁尖
大動脈弁の弁尖は、弁の能力に関与する基本的な要素です。大動脈弁尖への外科的介入の目的は、通常の構成を回復すること、すなわち、大動脈弁輪のレベルにわたってすべての尖の十分な高さの接合を達成することです大動脈の弁尖は3尖でできてるが、先天的に2尖弁の人もいます。弁尖に石灰化や肥厚、硬化、変性がある場合はAVPは困難となります。
大動脈形成で必要な解剖計測部位
Effective height(eH)
大動脈弁が閉鎖した状態での大動脈弁輪底部から大動脈弁尖先端までの垂直距離のことです。形成後にeffective height が9~10mm 以上となっていれば再手術のリスクは低下すると考えられています。
Geometric height(GH)
弁輪底部から弁尖先端までの弁尖長のことです。
Geometric height が小さすぎると接合が不十分となるのみならず,弁尖に形成を加える余地が少なくなるためAVP が困難となります。AVP の形成成功率を考慮するうえでgeometric heightの計測はとくに重要な項目となります。一般的には三尖弁で16mm以上、2尖弁で19mm以上で形成が可能です。
大動脈逆流(AR)の機能分類
大動脈逆流の機能分類を念頭に病変を術前に正確に評価する事が非常に重要になります。
大動脈弁閉鎖不全症はこの機能的大動脈弁複合体の異常によって起こる,と捉えられています。そして,弁尖の形状と動きにより大動脈弁閉鎖不全症を3型に分類しています。
Ⅰ型は大動脈弁弁尖は正常(normal cusp)でかつ大動脈基部拡大により生じる大動脈弁閉鎖不全です。この分類においてⅠ型は自己弁温存手術が選択されます。
Ⅱ型は大動脈弁弁尖運動が過剰であること(excess cusp motion)を特徴とし,大動脈弁逸脱や大動脈弁有窓化(fenestration)がこのⅡ型に属します。Ⅱ型は大動脈弁の病変は存在するものの,弁尖組織の変化は少なく,構造が比較的良好に保持されている大動脈弁閉鎖不全です。Ⅱ型の多くが大動脈弁に対する手術において形成術が選択され,自己弁温存が可能となりつつあります。
Ⅲ型は弁尖運動が制限されていること(restricted cusp motion)を特徴とし,リウマチ性や退行変性による大動脈弁がこのⅢ型に属し,弁尖組織の変化は高度であり弁の退縮や線維化・石灰化を高度に有します。Ⅲ型の多くは人工弁置換術が選択されます。
コメント