手術室での鎮静・鎮痛手術の基礎知識 -ASAのガイドラインー

新人教育

はじめに

近年、当科麻酔で鎮静をする手術が増加傾向です。

鎮静下の看護は外回り看護師にとってハードルが上がります。そのため新人さんは同じ手術でも器械出しは数回つけば独り立ち出来ますが、鎮静薬を使用する手術ではなかなか1人で任せられないため独り立ちか難しくなっています。

鎮静(セデーション)のことを昔は静脈麻酔という分野で勉強していたと思います。
婦人科の手術は、静脈麻酔でする手術が多かったので新人の頃は本当に嫌でした。
昔は、チオペンタールナトリウム(ラボナール)を使用していましたが、現在はプロポフォールやプレセデックス®を使用することが増えています。

私は、ずっと気になっていたことがあります。鎮静下手術での薬液の投与量や鎮静の定義や指標みたいなのはないのかな?と思っていました。私の愛読書『周術期管理チームテキスト第3版』には手術室での鎮静・鎮痛手術については掲載されていないです。そのため、どうやって勉強したらいいのかなと思っていました。

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先日、麻酔科医師から勉強会をしてもらった時にASA (American Society of Anesthesiologists:米国麻酔科学会)が1993年『非麻酔科医のための鎮静・鎮痛薬投与に関する診療ガイドライン(ASA-SED)』を発表し、2002年に改定を行い、2018年に処置時鎮静に特化した『処置目的の中等度鎮静ガイドライン』を発表したことを知りました。

非麻酔科医のための鎮静・鎮痛薬投与に関する診療ガイドラインとは?
(Practice Guidelines for sedation and Analgesia Non-Anesthesiologists:ASA-SED)

1.ASA-SEDは鎮静を4段階に定義しました。

反応性や呼吸・循環状態によって①軽い鎮静⇒②中等度鎮静⇒③深い鎮静⇒④全身麻酔
までの連続した4段階に定義しました。

2.鎮静・鎮痛薬投与の推奨6項目

・術前患者評価:術前合併症、気道評価、絶飲食時間の設定

・患者モニタリング:酸素化のモニタリング、呼名に対する反応評価、心電図、カプノグラム

・鎮静担当者の確保とその訓練:鎮静担当者の集中と一次救命処置、2時救命処置等の緊急対応

・緊急用機材の準備と薬剤投与:蘇生用薬剤、陽圧換気・気道管理器具、静脈路確保

・薬剤投与方法の原則:鎮静薬と鎮痛薬の相互作用、拮抗薬の準備、用量滴定

・回復期のケア:退室基準・退院基準策定の重要性

3.鎮静が目標レベルより深くなった場合の準備と対応が必須である!!

鎮静には、「軽い鎮静」の状態から、強い刺激にも反応がないくらい深く、呼吸・循環動態が不安定な『深い鎮静』まで連続性があります。予想していた深度よりも深くなった場合でも早期に異常を認識して、適切な処置が必要です。全身麻酔時の危機対応と同じ準備が必要だということを認識すべきであるとしています。

処置目的の中等度鎮静ガイドライン(ASA-SED2018)とは?

「非麻酔科医による鎮静および鎮痛の実践ガイドライン」を2018年に改定したものです。

対象となる麻酔深度を表で確認すると『中等度鎮静』になります。

処置目的の中等度鎮静ガイドラインの重要な点は以下のとおりです。

1.鎮静前評価:ASA-SEDと一緒

2.患者モニタリング
ASA-SEDと一緒だが、すべての中等度鎮静におけるカプノグラム評価の推奨。
「鎮静前」「鎮静薬投与後」「処置中」「回復期」「退室直前」の5点が推奨されています。

3.鎮静担当者の確保と緊急対応システム:
・鎮静担当者を配置することを強調しています。
・鎮静担当者に求められる能力は、『鎮静薬、鎮痛薬、拮抗薬の薬理学に習熟』『無呼吸や気道閉塞の把握および迅速な救護気道能力』です。

4.鎮静薬、鎮痛薬の投与の原則:
・ASA-SEDと同じく、特定の薬物について投与量や投与間隔を推奨していません。投与方法の原則を提示しています。
・『不安を減少させ、眠気を促すための鎮痛薬』と『痛みを緩和するための鎮痛薬』の使い分けの強調しています。
・追加された項目は、ベンゾジアピンの代替えとしてのデキスメデトミジンの推奨があります。

5.回復期のケア:
術前評価、術中のモニタリング、緊急対応だけでなく、回復期のケアと退室および退室基準の厳守を強調しています。

まとめ

手術室での鎮静・鎮痛手術に必要なことは、患者に鎮静 ・鎮痛に伴う危険を最小限にしながら,その利益を提供できるようにすることになります。

鎮静 ・鎮痛による一般的な利益は、
①不安,不快,あるいは痛みを解消することで患者が不快な処置に耐えられるようにすること
②子供や非協力的な成人に対して,鎮静・鎮痛によって不快ではないが患者が動かない必要がある処置を素早くできるようになること

危険を最小限にするためには、
①鎮静の施行によって循環抑制や呼吸抑制をもたらすことがあるので,そのような場合は迅速かつ適切に対処し,低酸素性脳障害,心停止,または死を回避すること
②反対に鎮静 ・鎮痛が十分でないと患者の協力が得られないことや,ストレスに対する生理・心理反応によって患者にとって不快もしくは何らかの障害をもたらす結果になるため、十分な鎮静・鎮痛を行うことになります。

鎮静を4段階の『中等度鎮静』を維持できるようにしっかりモニタリングをしながら、麻酔深度が深くなり呼吸・循環動態が不安定になった時には、すぐに対応できるように「知識」「技術」を身に着け、「必要物品をすぐに準備出来る」「連絡体制」などの環境を整えることが大切だと思います。

参考文献

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