前回お話した運動技能ですが、実際後輩に指導していて個人差もあるし、一筋縄ではいかず難しいなと感じることが多いと思います。
前回のおさらいですが、運動技能とは、お箸の持ち方や、自転車の乗り方、トランペットの吹き方看護で表すと「看護技術」「器械出し技術」に相当されるものです。
このパターンの技術を教えるのは、簡単そうに見えますが、じつは、かなり難しいです。
なぜ技能を教えるのは難しいのでしょうか?その要因を2点紹介します。
1.昔の自分を思い出せない、戻ることが出来ない
というのは、運動スキルというのは、自分でマスターしてしまうと、自分がまだできなかった頃のことを思い出すことができなくなってしまうからです。
お箸を持って、それを操ることがいったんできてしまうと、以前は自分もお箸がなかなかうまく使えなかったことを思い出すことができません。
これこそが、運動技能を教えるのが難しい原因です!教えようとしている相手はまだその運動スキルをマスターしていません。しかし、すでにそれをマスターしてしまっている教える側は、そんな簡単なことをなんで相手がうまくできないのかが理解できないのです。 自分はできているわけですから、簡単に見えるのです。「それぐらい、なんでできないの?」と思ってしまうわけです。しかし、教えられるほうは、怒られたりすれば、ますます緊張してうまくできなくなるでしょう。うまくできないとまた怒られる。ますますできなくなる……。こうなったら、教える側の失敗です。
2.暗黙知が含まれるから
自分が自然に出来る事と教えるのは簡単ではありません。なぜなら、そこには暗黙知が含まれるからです。ベナーは、看護における暗黙知を経験学習の積み重ねによってももたらされるものと説明しており、暗黙知が看護師の成長に大きく関わっていると述べています。
暗黙知とは、言語で明示的に表現できないような知識を示します。また、まだ言語化されていない知識という意味でも用いられることがあります。暗黙知の中には、明示化できるものもあります。看護師の暗黙知をできる範囲で言語化して、教育に活かしていくことが必要といえるでしょう。
運動技能の習得において重要なのは、学習者が認知的段階、体制化の段階、自動化の段階のどの段階にいるのかを理解して指導していくことです。そして自動化の段階になるまで見届けることが求められています。
おまけ:「学習の法則」について
それは「5000時間仮説」と呼ばれるものです。
どういうことかというと、誰でも5000時間ひとつのことを練習すればそのことに熟達する、ということです。 料理にしても、スポーツにしても、語学にしても、プレゼンにしても、どんなことも、だいたい5000時間をかけて練習すれば、熟達するということが明らかになっています。
5000時間というのはどれくらいの時間かというと、1日5時間で毎日練習すると、3年間で5000時間になります。もし、土曜日と日曜日は休みたいというのであれば、平日1日7時間練習すれば、3年間で5000時間になります。つまり、だいたい3年でうまくなれるということです。
また別の研究者は「10年修行の法則」というものを提案しています。これはどんなことでも10年間修行を続ければ、一流になれるということです。ひとつのことに熟達するための時間が5000時間、3年間だとすれば、さらにそれに磨きをかけて一流の人になるためには、10年の修行が必要だということになります。
3年にしても、10年にしても長い時間です。しかし、逆に考えれば、3年なり、10年なりの時間をかけて練習を積めば、「誰でも」ひとつのことに熟達できるのです。
手術室看護師が一人前になるまでに3年かかると言われているのも学習の法則に当てはめれば納得できます。私は15年手術室で勤務しています。10年以上修行を行っているので、一流のはずということですね。そう考えると修行が足りていない・・・。10年で一流とは短いと感じます(-_-;)
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