最近、循環器内科の分野で〝ストラクチャー”という言葉をよく聞くようになったと思いませんか?
循環器内科の血管内治療では冠動脈治療のPCI(経皮的冠動脈形成術)が一般的です。
しかし、最近はストラクチャー分野の活躍が目立ってきています。
ストラクチャーとは?
カテーテル治療が適応される冠動脈以外の疾患を包括して表すために1999年にMartin Leon氏により初めて用いられた用語で、構造的心疾患(structural heart disease: SHD)に対するカテーテル治療のことです。
構造的心疾患とは、「心臓の構造異常」で弁膜症(大動脈弁狭窄症、僧帽弁狭窄症・閉鎖不全症)、先天性心疾患(心房中隔欠損症、動脈管開存症)、閉塞性肥大型心筋症などの総称をさします。これらの疾患は外科手術が唯一の治療法でした。近年急速にカテーテルを用いた低侵襲カテーテル治療(インターベンション)が開発され発展しています。
ストラクチャーの歴史
昔から行われていた治療
・僧帽弁狭窄症に対する僧帽弁交連部裂開術(PTMC)
・肥大型閉塞性心筋症(HOCM)に対する経皮的中隔心筋焼灼術
近年開発された治療
・2005年 心房中隔欠損症に対するカテーテル閉鎖術が開始
・2013年 大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)が導入
・2018年 僧帽弁閉鎖不全症に対して「MitraClip」4月に保険償還された
・2019年 「WATCHMAN左心耳閉鎖システム」2月のに薬事承認を取得
日本で承認されているストラクチャー治療一覧表
ストラクチャー治療の今後
2013年TAVIの治療が開発されてから、急速にストラクチャー治療が発展してきました。
本邦ではまだ導入されていないが、今後本邦でも開始されるだろう治療がいろいろとあります。
経カテーテル僧帽弁置換術(TMVR)
僧帽弁閉鎖不全症および狭窄症に対しても大動脈弁狭窄症に対するTAVIと同様に経カテーテル治療法(TMVI:Trans-catheter Mitral Valve Implantation)が開発され、日本で治験が開始されています。嵐の二宮くんが主演をしていたドラマ「ブラックペアン」のスナイプに似たようなデバイスです。
経カテーテル的僧帽弁輪縫縮術
Cardioband(僧帽弁輪にリングを縫着する方法)
開胸手術だと僧房弁輪形成術(MAP)と同じ方法を経皮的に行う感じです。
(Valtech社HPより引用)
Mitralign(僧房弁輪の周囲を糸で縫縮する方法)
昔、開胸手術で三尖弁閉鎖不全症に行っていた弁輪縫縮術と同じような感じです。
(Mitralign社HPより引用)
三尖弁閉鎖不全症に対する低侵襲治療
三尖弁閉鎖不全症用カテーテル機器(Trialign system)が開発されています。三尖弁の一部に糸を掛けて縫縮し、弁輪を小さくして逆流を減少させる方法です。
尖弁閉鎖不全症用カテーテル機器(Trialign system)
(mitralign社HPより引用)
今後心臓血管外科はどうなるの?
TAVRが開始されてから、心臓血管外科しか出来なかった治療がどんどん循環器内科が出来るようになりました。低侵襲により患者さんの負担が減る事はとても良いことですが、長期予後が十分に分かっていないところは不安材料だと思います。開胸手術は侵襲が大きいため心身的負担は大きいですが、何十年も蓄積された技術で長期データが出ているのは開胸手術の利点だと思います。ただ、医師の能力の差が大きいと感じます。大動脈弁置換術にスーチャーレス弁が販売されていますが、胸を開け人工心肺に乗せるため、低侵襲とはいえません。だた、オペレーターの技術の差はなくせるのかもしれません。心臓血管外科医師もハートチームの一員としてストラクチャーに関わっている医師も多くなっています。ストラクチャーは循環器内科の分野ですが、心臓血管外科と循環器内科の間の分野だと感じます。外科的治療に近い内科治療といった感じがします。
心臓血管外科医師が「低侵襲の流れは止まらない」と7年前におっしゃっていましたが、本当にその通りだと感じています。
今後心臓血管外科は、何度も開胸手術をしている患者さんやストラクチャーの適応から外れるハイリスク症例が多くなりそうな気がします。そうなると、心臓血管外科の器械出しの後輩を育成するのも大変になりそうです。
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