TAVI合併症が起こるタイミングと対応

ストラクチャー

TAVIの代表的な合併症は①左室穿孔②急性僧帽弁逆流③急性大動脈弁逆流④ラピットペーシングによる循環破綻⑤冠動脈閉塞⑥弁輪破裂⑦房室ブロック⑧アプローチ大動脈の血管損傷があります。合併症が起こる手技は大まかに決まっています。合併症が起こるタイミングが分かっていると、術野で何が起こっているのか、合併症への対応が迅速に行えます。

1.左室へワイヤーやカテーテルを挿入する際の合併症

合併症①左室損傷

左室へワイヤーやカテーテルを挿入する際に左室を損傷してしまうリスクがあります。

左室穿孔してしまうと、穿孔部から出血⇒心タンポナーデになり血圧が低下します。

【対応】

・まずは心嚢ドレナージを行います。

・心嚢液の増加がストップ⇒手技を続けて経過観察を行います。

・ドレナージしてもすぐに再貯留⇒緊急で開胸を行い、外科的に左室修復を行います。

合併症②急性僧帽弁逆流(Acute MR)

・ガイドワイヤーが僧帽弁の腱索と絡むと急性僧帽弁逆流が起きてしまします。

・大動脈弁狭窄も存在しており、かつ僧帽弁逆流が起こると心臓から前方駆出できない状況になり血圧が低下します。

 【対応】

ガイドワイヤーの位置を調整すると改善します。

2.バルーン前拡張(preBAV)時の合併症

合併症③急性大動脈弁逆流(Acute AR)

大動脈弁が開放位で固定されて高度の大動脈弁逆流が発生します。⇒血圧低下

※術前のARが多い場合は、多少ARが増悪しても循環動態が慣れていて血圧低下などきたしにくいです。逆に、術前のARが少ないことの方がリスクとなります。

【対応】

・まずは、体外式ペースメーカーで少し早い脈拍数でペーシング:大動脈弁逆流は左室拡張期に起こります。血圧低下が激しい場合は、脈拍を上げて少しでも拡張期時間を短くして、逆流の影響を減らします。

・そして、急いで人工弁を留置します!!

合併症④ラピッドペーシング後の循環破綻

バルーン前拡張を行う時に、ラピットペーシングを行います。

ラピッドペーシングとは、HRを180~200回/分頻回に心臓を収縮させ心室頻拍を起こさせる処置です。血圧が低下することで大動脈弁の通過血流を減らし、バルーンや人工弁を拡張する時に血流に妨げられないようにします。

低心機能症例にラピッドペーシングを行うことは高齢者に短距離走を行っているようなものです。そのため、場合によってはのあとにラピットペーシングを止めた後も、血圧が上昇しないことが起きることがあります。

【対応】

・心臓マッサージ⇒ボスミンをIVします。

・場合によっては、PCPSを挿入します。

3.人工弁挿入・留置時の合併症

デリバリーシステムを挿入し、大動脈弁の位置を合わせラピットペーシングを行いながらバルーンを拡張し留置します。

この手技の時に多くの合併症が発生するリスクがあります。

合併症⑤冠動脈閉塞

・TAVI弁で冠動脈を閉塞してしまうことがあります。冠動脈が閉塞した場合、心エコーで心臓の動きが悪くなり、血圧が低下します。

・冠動脈閉塞の予測因子は3つあります。
①冠動脈の位置が低い②バルサルバが狭い③石灰化の存在です。

これらを総合的に考えて弁を留置する前に冠動脈にカテーテルを挿入し、冠動脈保護を行う必要性があるか検討します。

【対応】

・PCIを行い、必要時冠動脈にステントを留置します。

・完全に閉塞した場合は、開胸し外科的にバイパス術を施行します。

合併症⑥弁輪破裂

一番怖い合併症が弁輪破裂です。頻度は低く発生率は0.9~1.1%だとされています。一旦生じてしまうと院内死亡率が48%とされています。

TAVI弁を拡張した時に大動脈弁輪も広がります。石灰化が外側に動いた時や、ステロイドヘビーユーザーなどで組織が脆弱になっている患者は起こしやすくなります。

弁輪破裂の合併症が起きた場合、弁輪から出血し、心タンポナーデ⇒血圧低下 となります。

【対応】

・心室穿孔と一緒でまずは心嚢ドレナージを行います。

・心嚢液の増加がストップ⇒手技を続けて経過観察を行います。

・ドレナージしてもすぐに再貯留⇒緊急で開胸を行い、外科的に弁輪修復を行います。

以前は積極的に弁輪形成を行っていましたが、現在は圧迫止血で制御できるなら圧迫止血する方が予後が良いそうで、まずは、圧迫止血を行います。

合併症⑦房室ブロック

房室ブロックはTAVI後にペースメーカー留置を必要とする合併症として最も頻度が高いです。Sapien3で10%、Evolut Rで16.4%で発生するとされています。

原因
左室流出路の近くに刺激伝導系の房室結節があります。

人工弁を留置する事で金属のフレームが房室結節を石灰化で圧迫したり、損傷する可能性があります。また、弁を留置する位置が低いと房室結節を圧迫しやすくなり、ブロックになることがあると考えられています。

 

【対応】

・テンポラリーでペーシングを行い、後日恒久的ペースメーカー留置術を行います。

4.下肢血管造影時の合併症

⑧血管損傷

メインのアクセス用の動脈にはかなりの負担がかかっているため、下肢の血管に解離や、損傷をしていない事を確認するために下肢の血管造影をしますが、血管が造影されなかったり、もやもやと造影剤が漏れている時は血管が損傷されています。

個人的には一番多い合併症が血管損傷だという印象があります。

【対応】

・まずは、損傷部位を確認して可能であればへステント(Viaban®)を留置します。

・内科的に困難な場合は、開創をして外科的に血管修復を行います。

その他

合併症⑨弁脱落

私が経験した合併症で、本当に起こる事があるんだなと思った合併症が、弁脱落です。

留置したTAVI弁が左室内へ脱落する事があります。石灰化が少なく引っ掛かりがあまりないときなどに起こる時があります。

【対応】

脱落した弁を摘出するには、開胸するしか方法がありません。そのため開胸して弁と摘出します。

まとめ

成功すれば低侵襲で治療が出来る良い治療ですが、合併症が発生した場合重篤な状況になることがあります。

『TAVI=怖い』と感じている看護師の方も多いと思います。

重篤な合併症が発生した時に一番分かりやすい数値が『血圧低下』だと思います。心タンポでも急性AR、急性MRでもまずは『血圧低下』が起こります。合併症が起こる可能性がある手技を行っている時は血圧に注意しながら介助を行うことが大切だと思います。

重篤な合併症の左室穿孔や弁輪破裂など出血を伴う時は心タンポになります。BAVや弁留置後にオペレーターが心エコーをしている医師へ『水は溜まっていないか?』と確認する会話をよくしていると思います。水とは心嚢水がたまっていないか?⇒心タンポになっていないか?を確認している会話です。『水はありません』という返答があれば大丈夫だということになります。

急変が起きた時に患者さんに何が起きているのかが分からないという事がよくあります。どの手技をしている時に急変したのかであらかたの予想が出来る可能性があります。手技とバイタルと画像と医師の会話から予測が出来ると急変時の対応がスムーズに行えると思います。

参考文献

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