はじめに
看護師管理の鎮静手術で使用することの多いデクスメデトミジン(プレセデックス®)です。
1Vに対して生食48mlで溶解して使用するのが基本ですが、生食を48ml吸って準備するだけでも大変でした。使用すると手術伝票に記載されている場合は、良いですが、手術室に来て急に『プレセデックスで鎮静して!』とか言われたら、『はぁ!?前もって指示出しとけやー!!』とイラッとしますよね。
当院では1年前からデクスメデトミジンシリンジが採用され、溶解しなくてもそのまま使用できるようになったので楽になりました。
ただ、急にプレセデックスで鎮静することになった場合、どのくらい容量を使用するのが適切なのか?何に気を付けらいいのか?不安になります。看護師管理の鎮静手術で必要な知識についてまとめました。
主な使用目的
・局所麻酔時の非挿管での鎮静
・集中治療における人工呼吸器管理中および離脱後の鎮静
*自然な眠気の誘発が特徴で、呼吸抑制の副作用が弱い。(副作用は0,1%~1%)
作用機序
中枢性α2アドレナリン受容体作動薬。
α2受容体を刺激し、負のフィードバックによりノルアドレナリンの放出を抑制。
それによって⇒脳の中枢の青斑核(せいはんかく)の活動を抑制します。
その結果⇒鎮静・鎮痛作用、抗不安作用、交感神経作用抑制作用が出現します。
~α2受容体とは~
α2受容体はα2A・α2B・α2Cの3つに分類されます。
・α2受容体は、アドレナリン受容体において、負のフィードバックとして働き、α1作用に拮抗し交換神経作用を抑制する。
・結果、主に鎮静効果を発揮し、副作用としては心拍数の低下や血圧の低下をもたらします。
・高容量使用することでα2B作用から血圧の上昇を招くこともあります。
プレセデックスの特徴
・自然な眠気で鎮静中意思疎通が可能。
・呼吸抑制が起きにくい
・鎮痛薬の必要量を低減できる。
自然な眠気で鎮静中意思疎通が可能な理由
プレセデックスの標的は主に脳の青斑核です。青斑核は、興奮・覚醒レベルを上昇させる場所です。
【青斑核ニューロンの働き】
プレセデックスにより青斑核の活動を抑制しているため睡眠時と同じような状態を作り出しています。そのため軽い刺激でも目が覚めます。
呼吸抑制が起きにくい理由
青斑核に作用すお薬のため、プロポフォールと違って、中枢神経系の抑制効果はありません。
そのため呼吸抑制が起きにくくなっています。
鎮痛薬の必要量を低減できる理由
α2受容体は、脊髄にも分布しており脊髄の神経伝達を抑制して疼痛を軽減することが出来ます。しかし、プレセデックス単独の鎮痛作用はそこまで強くありません。
相互作用により鎮痛の必要量を低減することができます。
デメリット
・血圧の上昇と血圧低下:
α2受容体がノルアドレナリンと深く関わっているため、循環血液量が減少している患者では、低血圧になりやすいため慎重に投与することが必要です。
・無呼吸、舌根沈下:
呼吸抑制は少ないけど注意は必要。特に睡眠時無呼吸症候群のある人には注意が必要。普通の睡眠でも無呼吸になります。
・徐脈の発生:
徐脈になったときは硫酸アトロピンの投与が必要になります。違う鎮静薬への変更が必要になります。
・肝機能低下患者では作用が延長:
肝臓代謝薬のため
薬物動態
代謝:肝臓。肝血流に依存する薬剤
肝機能低下患者の重症度において、半減期が優位に延長していた
→肝機能が低下している患者は薬剤が残りやすく、α2刺激作用が抜けにくい。
排泄:腎臓。投与後1日で約85%が排泄、3日で尿中に93,8%排泄、便中に2,2%排泄。
腎機能障害による薬物動態の影響は健常者と顕著な差はなし。
用法・容量
プレセデックス1V(2ml/200㎍)を生食48mlに溶解し使用。
全容量/薬液濃度=50ml/200㎍。
初期投与量
プレセデックスを6㎍/㎏/Hで10分間投与する。
プレセデックス1V+生食48mlの場合
:6㎍=1,5ml
↓
200 × X = 300
↓
X=1,5ml。
例) 体重50㎏の人の初期投与量
1,5ml × 50㎏ = 75ml/Hで10分投与
維持投与量
プレセデックスを0,2㎍~0,7㎍/㎏/Hで投与する。
*プレセデックス1V+生食48mlの場合*
0,2㎍=0,05ml~0,7㎍=0,175ml
例) 体重50㎏の人の維持投与量
0,05ml×50㎏~0,175ml×50㎏
=2,5ml/H~8,75ml/Hの間で調節。
投与量のまとめ
*プレセデックス1V+生食48mlの場合*
初期投与量は1,5ml×体重を10分間!!
維持投与量は (Min) 0,05ml/㎏~0,175ml/㎏ (Max) この間で調節しながら投与!!
使用上の注意
循環血液量が低下している患者
α2刺激作用によって、α1拮抗作用やノルアドレナリン遊離抑制作用が起こり、心拍数の低下や血圧の低下がみられることがある。抗コリン薬の使用やペースメーカーの使用、昇圧剤、輸液負荷などの対応が必要となる。
高血圧
α2B刺激作用によって、血管抵抗の増大から血圧が上昇する可能性がある。
高容量投与時におこる可能性あり。初期投与量の時は注意。
腎機能障害患者
腎機能低下による代謝への影響は健常者と顕著な差はみられなかったが、代謝産物の尿排泄低下にから、代謝産物が体内へどれだけの影響を与えるのかは不明。腎機能障害から代謝産物蓄積を招き、薬効遅延が起こる可能性がある。
肝機能低下患者
プレセデックスは肝血流依存性の薬剤で肝臓によって代謝される。肝機能低下患者は半減期の延長が著名で、薬効の増強や効果遅延の可能性がある。
まとめ
投与量が増えれば副作用・デメリットの発現率は増加しますが、基本的には副作用も少なく耐性も生じにくい人気の薬です。しかし、もしもの時にそなえてのモニタリングや救急薬品、気道確保物品の準備は必須です。手術室には基本的に麻酔科医師がいるため、薬品の計算が苦手な人が多いと思います。私はとても苦手です。投与量も担当医に言われるがまま投与しています。痛くて起きてしまう患者さんに対して鎮痛ではなく鎮静でどうにかしようとする医師もいます。鎮痛と鎮静の両方で安全、安楽な手術ができる環境を提供するように頑張りたいと思います。
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