心筋保護液法

人工心肺

心筋保護法は、それだけで1冊の本になるほど奥が深く施設によってさまざまな特徴があります。
当院では部長が変わるたびにいろんな心筋保護液に変わっています。

心筋保護法

目的

・心筋保護法は、体外循環中に心臓の収縮能や拡張能を維持して低下させないように心停止に伴う心筋障害を回避する目的で使用されます。
・心筋は好気性代謝、すなわち酸素を使ってブドウ糖あるいは脂肪酸やアミノ酸を分解させて、効率よくATPを産生します。しかし、酸素を使わない嫌気性代謝では、ピルビン酸が細胞質で乳酸に分解されてATPの産生を行うためATPの産生は限られます。このことから虚血が心筋に対する最大の障害因子になります。

・心筋細胞は、分極拡張した状態で電気的心停止がなされると、酸素消費量が地下して平常時の1割程度に抑えられます。このために、通常、大動脈遮断直後に大動脈基部に留置したカニューレから、高カリュウム濃度の晶液性心筋保護液または、これに血液を混合したものが投与され、科学的心停止になります。

心筋保護を効果的に行うための6つの要件

Buckbergらは、1987年に心筋保護を効果的に行うために示した6つの要件を提唱しています。

  1. 迅速な心停止:心停止までに消費されるATPを最小限にする
  2. 低温維持:心筋内ATPの分解を可及的に遅らせる
  3. ATP産生のための基質の供給:好気性代謝維持のための酸素供給
  4. 適切なpH
  5. 細胞膜の安定化
  6. 心筋浮腫の回避

このうち、1,2は心筋保護の酸素消費を抑えることを目的とした処置です。心臓の拍動を止めることによって90%の酸素需要の節約が可能ですが、20℃の心筋を10℃まで冷却してもさらに5%程度の節約にしかなりません。よって特に重要なのは1の迅速な心停止です。
高カリウムの心筋保護液を注入して心筋保護を注入して心停止するのが一般的です。心停止を得るために必要なカリュウム濃度は15~30mEq程度で、30mEq以上の濃度は必要ありません。維持目的であれば、カリュウム濃度は8~10mEq/Lまで減らすことが出来ます。

最近の心筋保護液の主流は?

・4~10℃に冷却酸素化した晶液性心筋保護液を使用するか、酸素化した人工心肺内の心筋保護液を加えてK濃度を20mEq/L前後に調整して20℃前後に冷却して投与する血液心筋保護液が主流です。

・心筋保護液としては、市販化されたSt,Thomas第2液(ミオテクター®)が利便性と安全性から多く使用されています。
K以外の添加物は
エネルギーの基剤:グルコース、アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)
電解質:Na,Mg,Ca
緩衝剤:NaHCO3、THAM
細胞膜の安定化:リドカイン
心停止を得る為:プロカイン
浸透圧の維持:マンニトール

Mgに関しては16mEq/Lが再灌流障害を防ぐうえで最良です。
Caはゼロでは逆に再灌流心筋障害を起こすことが知られています。(カルシュウムパラドックス)

カルシュウムパラドックスとは?

1967年にZimmermanらが実験において、カルシウム欠乏溶液で処理した後にカルシウムを含む溶液に移し変えると、心筋細胞中にカルシウムが流入し心筋が損傷・壊死する不思議な現象に対して名づけた用語です。

注入量と灌流圧と投与間隔は?

過剰な灌流圧は心筋の浮腫を起こすうえに、時に大動脈基部破裂や冠動脈解離を引き起こす可能性があります。
・通常冠動脈の灌流圧は80~90mmHgを目標
灌流量はCCP(晶液性心筋保護液)では初回10~15ml/kg。追加は、20分~30分ごとに5~8㎖です。
BCP(血液添付加心筋保護液)では注入量では初回1.5L、追加は20~30分ごとに1.0Lと多めにします。
いずれにしても、電気的心停止と冷却また適切な酸素供給が心筋保護の要となります。
・また忘れてはいけないのが心膜などから心筋へ流入するnon coronary Collateral flowの存在です。全身の循環がある限り、個人差はあるが数%の血液が冠動脈内の心筋保護がWash Outされて、心筋細胞内外のK濃度が低下し、心筋温度が上昇します。これが心筋保護を20分から30分おきに追加注入する理由の1つです。

Hot Shotとは?

大動脈の遮断を解除して人工心肺からの血液が冠動脈内に流れ込むと心筋は加温により心拍動を始めます。しかし、この段階では心筋細胞内のATP量がまだ十分に回復しておらず再灌流障害を起こす可能性が高くなります。加温は必要だが心拍動にはまだ早いわけです。
遮断解除前に若干高めのK濃度の加温血液で冠動脈あるいは冠静脈を灌流すると、心筋は心停止を保ち、一方で心拍動に使うエネルギーを保存し心拍動に備えることが出来ます。これがhot shotで、注入温度は37℃前後に保ちます。大動脈基部から順行性にhot shotを行う際の灌流圧は、心筋の浮腫を予防するために50mmHg程度がよいとされています。
またhot shotに使うK添加血液の量は順行・逆行・併用とも0.6~0.8Lが標準的であり、K濃度は初回BCP(血液添付加心筋保護液)と同様に血液と心筋保護液と比率を変えて漸減させます。

 

 

 

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