人工心肺中のモニターの基準値がいまいち分からない
血液データーをもとにどのくらいで輸血しているんだろう?
私は心臓手術の介助について慣れるまでは、人工心肺中モニターや血液データーの結果でどのように循環や補正の管理しているのかがよく分かっていませんでした。私と同じような人のために、勉強したことをまとめてみました。
人工心肺中の循環管理
血圧
通常上肢(橈骨動脈)からモニターします。
上半身と下半身を分離して循環する場合には下肢の血圧もモニターします。
完全体外循環中の平均血圧は60〜80mmHgの範囲で管理するのが望ましいです。
血圧が低い時
・血圧が低い場合は送血流量を増やす
・末梢血管抵抗を上昇させる昇圧剤を投与する
・適正な総血流量が確保されていて一定の尿量が確保されているならば特に血圧を上げる処置をしない場合もある
血圧が高い時
・脳出血などを引き起こす危険性があるため末梢血管拡張剤を用いて適切な血圧まで下げる。
・血流量を減らしても血圧は低下するが一時的な対処ならいいが、長時間に及ぶ低灌流はむしろ危険です。早急に高血圧の原因を探します。
中心静脈圧(CVP)
・体外循環中は適切な脱血が行われているかを判断する上で重要にな指標になります。
・上下大動脈系の中心静脈圧の測定が望ましいですが、内頸静脈圧のみで行う場合が多いです。
・CVPは0mmHg付近になるように維持します。CVPが高い時は、脱血不良などが考えられます。
・CVPが20mmHg以上になると脳浮腫を合併する危険性があるので注意が必要です。
心拍再開時
・心拍動が再開し、心電図が安定してきたら、徐々に貯血レベルを下げて、CVPを5mmHg程度まで上げていきます。
・通常CVPが5〜10mmHg程度で十分な脈圧が得られるはずです。
・10mmHgを超えても十分な脈圧が得られない場合には、離脱作業は慎重に行う必要があります
肺動脈圧(PAP)
・右心室の機能と循環血液量の指標となります。
・右心室の拍出がなくなるととともにPAPは低下し、完全体外循環中はCVPと等しくなります。
・低い場合:循環血液量の不足から右心機能の低下
・高い場合:左心機能の低下や僧帽弁の狭窄・逆流
が考えられます。
尿量
・尿量は腎血流量を反映するだけでなく、その他の臓器血流量の間接的指標でもあり、良好な循環動態が得られないと維持されません。
・尿の排出があれば良い循環動態が得られているともいえます。水分出納や血清カリュウム値の変動を予測するためにも重要なモニターとなります。
・1時間当たりの尿量は1ml /Kg以上が望ましい。50kgの場合、1時間50mlです。
・排出される尿の色より溶血の程度も知ることができます。
・尿量が多い場合:血清Kの低下及び貯血槽レベルの低下に注意
・尿量が少ない場合:潅流圧、ポンプ流量を上げたり、利尿剤を投与したりして尿量を正常化するように努める。
体外循環前までに尿量が少なくても、体外循環開始後、灌流量が増加し、希釈の影響もあり、著明に増加することが多いです。
術中モニターの値まとめ 一覧表
項目 |
値 |
指標 |
血圧 | 平均血圧60〜80mmHg | |
中心静脈圧(CVP) | 0mmHg付近 | 適切な脱血が行われているか |
肺動脈圧(PAP) | 0mmHg付近 | 右心室の機能と循環血液量 |
尿量 | 1時間1ml /Kg以上 | 良好な循環動態
水分出納や血清カリュウム値 |
血液データ
PH(酸塩基平衡)BE
・体外循環中であってもpH7.35~7.45(37℃補正)でBEは0±5がおおむね正常範囲となります。
体外循環中のアルカローシス
過換気による低炭素ガス血症、多尿やバイカーボネート透析液による術中透析などが原因となりますが、軽度であれば問題になりません。
体外循環中のアシドーシス
全身あるいはいずれかの組織で虚血(低酸素)による嫌気性代謝が起きていることも考えられるため、血液ガス、循環動態などを再チェックします。
著しいアシドーシスは重炭酸ナトリウム(メイロン)で補正します。
動脈血酸素分圧(Pao2)
・酸素飽和度が100%に達していれば、それ以上酸素分圧を上げても酸素運搬能はほとんど上がらないためPao2は100mmHgで十分なはずです。
・体外循環中は血液濃度や血行動態、そして体温変化による組織の酸素消費が刻々と変化するため安全マージンをとり通常200〜300mmHg程度で管理します。
・人工肺に吹送する酸素流量はあるいは酸素濃度で調整できます。
低下する原因
吹送ガス量の低下、酸素濃度の低下、人工肺の異常、体温の上昇などが考えられる。
動脈血炭酸ガス分圧(Paco2)
・Paco2は30〜40mmHgになるように調整します。
・Paco2は人工肺に吹送するガス流量に反比例します。
上昇する原因
・吹送ガス量の低下、人工肺の異常、体温の上昇などが考えられます。
・空気塞栓の予防のため胸腔内に炭酸ガスを流している場合には、胸腔内の血液に炭酸ガスがとけ、これをベントサクションで吸引して送血に混ざり Paco2を上昇させることがあります。
ヘマトクリット値(Ht)・ヘモグロビン(Ht)
・通常、体外循環は充填液で血液が希釈されます。
・常温における希釈限界はHt20%,Hb7g/dLとされておりHt20%,Hb7g/dL以上を維持する。
低体温体外循環であればこれより若干下げられます。
・過度の希釈は酸素運搬を低下させ、代謝性アシドーシスの原因となります。また凝固止血障害が発生することがあります。
体外循環中に低下する原因
・尿量を超える補液、組織から血管内への水のシフト、術野以外での出血が考えられます。
体外循環中に上昇する原因
・赤血球の輸血あるいは除水・排尿・血管外への水分のシフトにより上昇します
血清カリウム値(k)
・通常3〜5mEq/Lで管理します。
・これより低くても高くても不整脈が発生しやすくなる。
・多尿や術中透析、低カリウム駅の大量補液によって下がる。
・補正する場合には塩化カリウム剤を投与するが、人工心肺から投与する場合でもには、送血流用1000mL/min当たり1mE/ minの速度より早く投与しないよにする。
カリウム値が上がる原因
・腎不全あるいは尿量の低下、多量の心筋保護液の投与、血球や組織(細胞)の破壊などが考えられます。
・急速にカリウム値を下げる場合には術中の血液透析が最も効率が高いですが、大量に除水と高カリウム液の大量補液によってある程度のカリウムは排出できます。
・急速にカリウム値を下げるには、糖とインスリンを投与するGI療法が有効です。
カリウム値が下がる原因
・血中K濃度は血液希釈や尿中への排泄、細胞への移行のため。
・尿量が多いときはその低下が著しい。
しかし、心筋保護液中のK濃度が体外循環中に混入するために、K濃度は上昇することもある。
血清カルシュウム値(Ca)
・Caは輸血の大量投与によって低下する。Caの著しい低下は心機能や血液の凝固能にも影響するため、離脱までにはカルシウム剤によって補正しておくことが望ましいです。
・血液希釈などにより体外循環中は低値示すことが多いです。
・強心剤を用いて体外循環を離脱する時には、Caが低値であると強心剤が反応しないために補正を行う必要があります。
・当院では、Ca1.3前後を目標に補正して離脱している。これによりノルアドレナリンやドブタミンなどの使用量を軽減できることを期待しています。
血清Ma
・血液希釈などにより体外循環中は低値を示すことが多いです。
・Maも血液希釈などにより体外循環中は低値を示すことが多いです。
・MgやKが低値だと不整脈が出現するので、体外循環の離脱が困難な場合は、補正する必要があります。
血糖値(BS)
・体外循環開始とともに血糖値は上昇する傾向があります。
・特に基礎疾患に糖尿病がある場合には、著しい高値を示すことがあるので注意が必要です。
不活性凝固時間(ACT)
・ACTのチェックは回路内部での血栓形成を防止するため重要です。
・体外循環開始前にヘパリンを投与したら、必ずACTをチェックしてヘパリンが機能していることを確認してから術野からの吸引を開始します。
・体外循環はACTが480秒を超えてから開始します。
・体外循環開始直後、大量輸血の後、さらには復温時には特にチェックが必要になります。
ACTが480秒を超えない場合
・ヘパリンを追加投与する。
・それでもACTが伸びない場合には、アンチトロンビン(AT)3欠乏症などを疑います。
・ACTはヘパリンの消費によっては低下してゆくので、体外循環中は定期的にチェックを行います。
血液データのまとめ 一覧表
維持範囲 | 原因 | 異常に伴う障害 | |
PH |
7.35〜7.45(0±5) | 低値は循環動態の悪化や酸素の欠乏 | 生体での代謝異常 |
PaO2 |
200〜300mmHg | 低値はガスの供給、 人工心肺のトラブル |
低い場合は低酸素血症 |
PaCO2 |
30〜40mmHg | 高値はガスの供給、 人工心肺のトラブル |
PH異常 |
SvO2 |
70%以上 | 低値は酸素加不足か灌流量の不足 | 低い場合は組織の酸素欠乏症、循環不全 |
K |
3〜5 | 高値は尿量低下や心筋保護液の大量投与 | 不整脈 |
Ht(Hb) |
HT:20% Hb:7 以上 | 低値は過度の希釈や回収不能の出血 | 過度の希釈は浮腫、酸素運搬能の低下 |
ACT |
480秒以上 | 低値はヘパリンの不足かATⅢの欠乏 | 回路内部での血液の凝集 |
参考・引用文献
・人工心肺ハンドブック
・最新 人工心肺
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