後輩へ指導しながら手術についていた時に、送血管、脱血管、ベントの挿入部位、CO2挿入の目的、心筋保護液の注入方法と説明しているとそれぞれの方法が深いなぁーと感じたのでまとめてみました。
送血部位は主に4つの方法があります
- 上行送血、アーチ送血
- 大腿動脈送血(FA送血)
- 鎖骨下送血(SCA送血)
- 腋窩動脈送血(AxA送血)
- その他(経心尖部上行大動脈送血、経心房左室送血)
1.上行送血、アーチ送血
適応症例:通常の送血部位として上行送血が選択されます。
特徴:順行性血流の送血経路になります。簡単で安全な送血部位で、比較的太いカニューレを挿入する事が出来る。そのため、流速を低く抑える事が出来るため、粥腫や血栓などを動脈壁から剥離する危険性が低いです。
注意事項:もし、大動脈壁に粥腫や血栓などが送血管のジェット流で剥ぎ取れた場合、脳塞栓や腹部臓器の機能障害を起こす事もあるため術中に直接送血部位へエコーをあてて確認する事が重要です。
アーチ送血:上行大動脈には石灰化や肥厚があるため送血管を挿入できないけど、1枝と2枝の間辺りに送血管を挿入出来そうなときに送血部位として使用します。ストレートの送血管を使用する事が多いです。
【私が経験したトラブル】
・送血管を挿入した時に大動脈解離を起こしたことが何度かあります。
トラブルが起こりやすい状況は、未熟な医師が送血管をグリグリしながら挿入した時。
大動脈閉鎖不全症(AR)は大動脈がペラペラに薄くなっている事があり起こる印象です。
送血管を挿入した時は分かりませんでしたが、人工心肺を開始した時に送血圧が異常に高くなり判明しました。
その後どこまで解離が及んでいるかを診断して場合によては、ヘミアーチやトータルアーチを行います。
2:大腿動脈送血(FA送血)
適応症例:上行大動脈が石灰化や肥厚などで使用できない場合、上行動脈が解離を起こしている場合、再手術症例で開胸が困難な場合、MICS手術、胸腹部大動脈置換術などで選択されます。
特徴:逆行性送血となりますが、血流分布や血管抵抗に違いはないとされています。
問題点:
・末梢の血行障害を起こす可能性がある
・逆行性灌流による塞栓症(脳梗塞を含む)Shaggy aortaなど。
・解離症例での偽腔灌流
3:鎖骨下送血(SCA送血)
適応症例:上行大動脈に石灰化や肥厚があり下行大動脈がShaggy aortaなど汚い時
上行大動脈の性状が不良な場合や解離症例でも腋窩動脈はだ大丈夫な事が多い。
特徴:
・トータルアーチで脳分離を挿入する時に、1枝の送血部位としても使用可能。
・鎖骨下動脈をテーピング後、人工血管を縫い付けそこからコネクターを挿入し送血します。
【私が経験したトラブル】
・長時間手術になった時に、右腕に血圧計のマンシェットを巻いていたため駆血され右腕が腫脹し多くの水疱形成されたことがあります。
・よくあることですが、人工血管吻合部からの出血で床が血まみれになります。
・出血は、送血圧がかかるためある程度は仕方ないですが、オペレーターも気づいていない事があるため、あまりにも多量の時は教えてあげた方がいいです。
4:腋窩送血(AxA送血))
適応症例:鎖骨下送血と適応は一緒。大動脈弓部置換術症例。
特徴:
・トータルアーチで脳分離を挿入する時に、1枝の送血部位としても使用可能。
・自施設では脇の下からアプローチをするので、患者さんの右腕を挙上し、若杉氏上肢固定台に乗せ固定しています。
・脇の下に傷が出来るので術後傷が目立ちにくい
その他(経心房左室送血、経心尖部上行大動脈送血)
自施設では行っていないので、詳しく分かりませんが経心尖部上行大動脈送血、経心房左室送血も行えるそうです。
【経心房左室送血】
特徴:右上肺静脈から左房、僧帽弁を経て左室に送血管を留置する
利点:左室ベントの要領で留置可能
簡便で順行性送血が可能
欠点:僧帽弁逆流が増悪し、肺動脈圧上昇をきたす
収縮期動脈圧が40~50mmHgを超える時は中止し、送血部位の変更を行う
【経心尖部上行大動脈送血】
特徴:心尖部を切開し、送血管を左室から大動脈弁を経て上行大動脈に留置する
順行性送血が可能
利点:簡単
欠点:左室の穿刺部の出血や損傷リスクは考慮が必要
コメント
心臓の再手術に関しての安全に関しての質問です。
小開胸でもなく再胸骨正中切開の場合でも大腿部から人工心肺をつなぐ事などあれば教えて下さい。
セルジンガー法で行う場合(大腿部)目視のみ(エコーやX線を使用しない)で管を正し通す事は可能ですか。(逆血、色、他数値だけで判断)
※数値が正しくても管が曲がった状態で入ってる場合取り返しがつかない可能性もあると思いますが、その様な心配は無用でしょうか。
御質問ありがとうございます。
再開胸手術の場合は、胸骨切開をするのが危ないと判断された症例は、大腿動脈から送血管を挿入し人工心肺を回しながら胸骨切開を行なっています。回すほどではないけど、ちょっと怪しい時は大腿動脈の血管を露出してから胸骨切開を行なっています。
当院では、大腿部から送血管を挿入する場合は必ず血管を露出させてから穿刺しているので、セルジンガー法で挿入したことがありません。
PCPSやIABPを術後に挿入する時はセルジンガー法で挿入しています。
その場合は、位置確認の為に術中透視を行っています。
的確な回答が出来てなくて申し訳ないです。
ご回答ありがとうございます。
血管を露出させて行うのですね。
それは安全を第一(確実な)に考えた事だと素人の私も思います。
ごめんなさいほんとに基本的な素人な疑問で申し訳ないですが、最後に教えて下さい。
もしセルジンガー法で行う場合、挿入時に✕線やCT、エコーなどで位置を確認せずシースに接続したシリンジで血液の出し入れがスムーズに行えたので問題ないと判断はできるのでしょうか。
それだけで断定できるという事が常識(通常な処置)という事はありますか。
可視下で行うことが安全の為必要だと思うのですが、ベテランになるとその必要が無いという事も考えられますか。
最後にします。
よろしくお願いします。
すいません説明を具体的にします。
心臓の再手術の際、もしもに備えて大腿部から人工心肺の送血を行えるようにシースを留置させておくのですが、そのシースを非透視下で行う事が
一般的でしょうかと言う意味です。
※スムーズにできたと認識してもシース自体が折れ曲がってる事に気づかない等問題が生じたりする事は想定外となるのでしょうか。
何度もすいませんよろしくお願いします。
SHIROさんへ
返信が遅くなって申し訳ありません。
シースの種類によると思いますが、emergency用の4Frシース程度なら非透視下で行っても問題ないのではないかと思います。
当院では胸腹部や弓部大動脈人工血管置換術時は、大動脈圧をルーチンで測定を行うため4Frシースを留置していますが、透視を使用したことはありません。
ただし、どうしてもガイドワイヤーが進まないなどいつもと違うと判断した場合は、体表エコーをおこなったり、どうしてもおかしいという場合のみ術中透視を依頼することがあります。
もしもシースが折れ曲がっていたら圧が計測できなかったり、逆血が確認できないので異変に気付くことが出来ると思います。
大腿動脈から送血管を挿入する予定の場合は、術前のCTで解離や瘤、石灰化や粥腫がないかを確認しているので、普通にきれいな大動脈であれば大丈夫だと医師は考えているのかもしれません。
ちゃんと返答が出来ていいのですが、間違っていたらまたコメントを宜しくお願い致します。