麻酔科医がフィブリノゲンを測定するのはどんな目的があるのか?
FFPの投与量は何を目安にしているのか?
このような疑問を持っている方にオススメの記事です。
・フィブリノゲン値が低いと血小板が凝集せず、止血不良がおこる
・血中フィブリノゲン目標値は150mg/dl
・血中フィブリノゲン値を100mg/dlを切ると凝固しない。止血は無理と考える。
・FFP2単位(1本)でFib10ぐらいの上昇が見込める。(体格により違いあり)
まずは、出血と止血の基本知識の復習からです。
術中大量出血を起こす原因
外科的な問題
・血管や臓器を気付けることによる出血で出血点は、傷ついた部位に限定されます。
⇒対応:圧迫、縫合、電気メス
血液自体の問題
・凝固因子を失うことによる出血(希釈性凝固障害)で、出血点がどこだかわからない、湧き出るようなウージング
⇒対応:止血のための輸血
大量出血では両者が混在する
・初めは外科的な出血で始まりやがて出血量が増えて凝固障害を起こすという流れになります。
・凝固障害による出血は、外科手技的な止血をきわめて困難にします。
凝固障害による止血不能状態
・最近ではフィブリノゲン枯渇による止血不能状態だと研究で明らかになりつつあります。
大量出血における補充の優先順位
・今までは、血を止めるには血小板輸血と信じられていましたが、大量出血時いち早く補充すべきものは、血小板よりもフィブリノゲンです。
血小板
手術中大量出血、重症外傷、産婦人科出血では2万/μLを切る危機的状況に陥ることはほとんどありません。
フィブリノゲン
手術中大量出血、外装、産婦人科出血では、100~150mg/dlを下回る危機的状況に陥ることがしばしばあります。
・2016年では、フィブリノゲンが血小板減少状態をおぎないうる因子であると報告されています。
そのため、現在は優先順位はフィブリノゲン⇒血小板
なぜフィブリノゲンを先に補充を行わないといけないのか?
・フィブリノゲン(Fib)は血小板どうしを橋渡しする役割があります。
・血小板が十分あっても、フィブリノゲン値が低いと血小板が凝集せず、止血不良がおこります。
まず、フィブリノゲンを補充しないと血小板を入れても止血はよくなりません。
止血に必要な凝固因子の最低
・血小板、プロトロンビン、第Ⅴ因子、第Ⅶ因子は基準値の20%あれば止血が可能です。
・フィブリノゲンだけは、60%の150mg/dlないと止血できません。それだけフィブリノゲンは止血にかなり重要な因子になります。
血中フィブリノゲン値で血小板数の予測と止血能
血中フィブリノゲン値 |
予測血小板数 | 凝固障害の状態 |
180mg/dl |
5万 | 凝固障害の予兆 |
150mg/dl |
3万 |
止血不良 |
100mg/dl | 1万 |
出血傾向著名 |
50mg/dl | 5千 |
止血不能 |
心臓手術中のフィブリノゲンの変動(人工心肺使用の手術)
時期 | フィブリノゲン変動 |
備考 |
人工心肺開始時 |
30%低下 |
人工心肺1000~1500mlのプライミングによる血液の希釈 |
人工心肺中 |
10%~40%低下 |
人工心肺中ヘパリン化していても、線溶亢進・凝固亢進するためフィブリノゲン値は下がり続ける |
フィブリノゲン補充し凝固をよくするためには?
FFPの投与されていると思いますが、大量出血症例にはフィブリノゲン製剤・クリオプレシピテートを用いた止血管理を行うことを推奨されているそうです。
自施設では、フィブリノゲン製剤・クリオプレシピテートは使用したことはないです。
フィブリノゲン測定方法
Atom Medicalホームページより引用
自施設では、中央検査室と血液凝固分析装置FibCareで計測しています。
大量出血への緊急対応は、いったん後手に回ると取り返すのかとても難しくなります。
中央検査室提出では検査結果30分以上はかかるため、2分で測定できるFib Care(フィブリノゲン迅速測定機器)で計測しています。
自施設でのフィブリノゲン値とFFP投与の実際
・一度凝固障害を引き起こし出血傾向となると、FFPで追いかけてもなかなかFib値は増えないので、早めの対応をしています。
人工心肺症例
・人工心肺中(離脱1時間ぐらい前)に中央検査室とfibcareでフィブリノゲン測定を行う。
・目標値は人工心肺離脱時に150mg/dl
・フィブリノゲン値を見てFFPの投与量を考える。(目安:FFP2単位(1本)でFib10上昇)
例えば)測定値が120なら6単位(3本)、100なら10単位(5本)と考える。それに加えて離脱してからの出血を追っかけるために数本を含めて溶解する。
・大量のFFP(6~10単位以上:3~5本を投与)を投与したい場合は、人工心肺から投与する。
⇒例えば)10単位の場合、1200mlの容量負荷になるため、人工心肺離脱後に一気に投与しようとしても入れにくい状況になり、無理に入れるとHbの低下など血液の状態も崩れがちとなるため。
・人工心肺中に入れてそのぶん除水をかけてもらい、適切な血液・凝固系の状態(止血が得られる状態)で離脱に向かうことが望ましい。
参考文献
・術中大量出血時に望まれる検査・輸血対応:山 本 晃 士
・新鮮凍結血漿の投与基準を検証する一実効性のあるトリガー値の提唱一 山本 晃士
・大動脈置換術時の手術侵襲と凝固線溶異常:山 本 晃 士
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