緊急手術で「まんこうが入ったから穿頭洗浄ね!」と急に言われて、慌てた経験はありませんか?
穿頭洗浄術と脳室ドレナージ術は、どちらも頭蓋骨に穴をあけてドレーンを入れる手術です。手順が途中までよく似ているため、術式の違いを理解しないまま介助についている新人さんも少なくありません。
しかも、どちらも緊急手術が多く、事前に調べる時間がありません。そのためか、当院ではドレーンの出し間違いが多い術式です。
結論から言うと、違いは「サイフォンの付いた回路が必要かどうか」です。
・穿頭洗浄術は閉鎖式ドレナージ
・脳室ドレナージ術は開放式ドレナージを使います。
難しい話ではないので、今まであまり気にしていなかったという方も、ここで整理しておくと緊急手術で慌てずにすみます。
穿頭洗浄術と脳室ドレナージ術の違い 一覧表ー

1.適応疾患
穿頭洗浄術:慢性硬膜下血腫

硬膜の下に、ゆっくりと血液(血腫)がたまり、脳を圧迫している状態です。
現場では略して「まんこう」と呼ばれます。
高齢者に多く、軽く頭をぶつけてから数週間〜数か月後に症状が出てくるのが特徴です。本人や家族が頭を打ったことを覚えていないこともあります。
主な症状は、頭痛、物忘れやぼんやりする(認知症のような症状)、歩きにくさ、片側の手足の麻痺、言葉が出にくい(失語)などです。血腫を取り除けば症状の改善が期待できるため、早めの発見と治療が大切です。
脳室ドレナージ術:急性水頭症

脳内出血(特に視床出血や小脳出血)やくも膜下出血が起こると、髄液の通り道が血液や血腫でふさがれたり、髄液が吸収されにくくなったりします。
その結果、髄液が脳室にたまって脳室が拡大し、頭蓋内圧が急激に上がった状態を急性水頭症といいます。
脳室ドレナージ術は、脳室に細い管(ドレーン)を入れて、たまった髄液を体の外に排出し、頭蓋内圧を下げるための治療です。
2.手術の目的
穿頭洗浄術

- 頭蓋骨に小さな穴を開け、たまった血腫を吸引し、生理食塩水で洗い流して、脳への圧迫を取り除く
- 術後はドレーンを入れて、残った血腫や洗浄液を体の外に出し、再発を防ぐ
脳室ドレナージ術

- 側脳室にドレーンを入れ、たまった髄液や、血液の混じった髄液を体の外に出す
- 頭蓋内圧を下げて一定に保ち、脳ヘルニアを防ぐ
- 排液の量や性状を観察し、頭蓋内の状態を知る手がかりにする
※ 図の「設定圧」は、外耳孔(0点)からドリップチャンバーまでの高さのことです。頭蓋内圧がこの高さを超えると、髄液が流れ出るしくみになっています。
3.手術の緊急度
穿頭洗浄術:緊急だが待てることが多い

穿頭洗浄術は準緊急手術です。
手術が必要な状態ですが、急激に悪化することは少ないため、意識レベルの悪化がなければ、すぐに手術室へ行かなくても待てることが多いのが特徴です。
慢性硬膜下血腫は、数週間〜1、2か月前の頭部外傷のあとに、硬膜の下(硬膜と脳のすき間)へ血腫がゆっくりたまる病気です。外傷の直後は症状がなく、しばらくしてから麻痺、歩きにくさ、物忘れなどが少しずつ出てきて受診されることが多いです。
ただし、待っている間に悪化することもあります。意識レベルの低下、麻痺の悪化、瞳孔の左右差などがみられたら、急いで手術をする必要があります。
脳室ドレナージ術:非常に急ぐことがある

脳室ドレナージ術は緊急手術で、非常に急ぐことがあります。
急性水頭症で頭蓋内圧が急に上がり、頭痛・嘔吐・意識障害がみられる場合は、脳ヘルニアを防ぐためにすぐにドレナージを行います。
手術室が間に合わないときは、救急外来で行うこともあります。
また、くも膜下出血でコイル塞栓術(コイリング)を行ったあとに、続けて穿頭ドレナージを行うこともあります。コイリングで再出血を防いだあとも、くも膜下腔の血液によって急性水頭症が起こるためです。
4.ドレーンの種類と挿入部位(ここが一番の違い)
穿頭洗浄術:閉鎖式ドレナージ

ドレーンの種類: 閉鎖式ドレーン。陰圧はかけず、自然に排液します。
頭蓋内圧のコントロールを必要としないため、回路内にサイフォンなどの圧設定をする部分はありません。
挿入されたドレナージチューブが排液バッグに接続され、残った血腫や洗浄液を体の外に出すことで、再発を防ぎます。
挿入部位: 硬膜の下の血腫腔(血腫がたまっていた袋の中)
脳室ドレナージ術:開放式ドレナージ

ドレーンの種類: 開放式ドレーン。
頭蓋内圧をコントロールするため、サイフォンの原理を用いた回路を使用します。脳室に挿入されたドレナージチューブにサイフォンの回路を接続し、排液バッグにつなぎます。外耳孔(0点)からの高さで設定圧を決め、頭蓋内圧が設定圧を超えると髄液が流れ出るしくみで、頭蓋内圧を調整します。
挿入部位:側脳室の前角(モンロー孔付近)
サイフォンの原理とは

高低差によって生じる自然の圧力差を利用して、液体を高いところに上げてから低いところに移動させる原理です。
ドレナージでは、回路の両端の圧力差を利用して液体を移動させています。排液バッグはドレーン挿入部または外耳孔より低い位置に留置し、この高低差が大きいほど排液する力が大きくなります。
5.手術の体位
穿頭洗浄術

左側の慢性硬膜下血腫の場合は、仰臥位で右側に肩枕を入れ、できるだけ左を向いてもらえるような体位をとります。右側の場合はその反対です。
両側の場合は、左右どちらかを先に行い、その後に滅菌ドレープを取り除いて反対側の体位を取り直し、再消毒してから穿頭術を行うことが多いです。
脳室ドレナージ術

ドレナージチューブを脳室の前角(モンロー孔付近)に留置するため、まっすぐ上を向いた仰臥位で行うことが多いです。
脳室の前角(モンロー孔)は、鼻根部と外耳孔からの垂線の交点にほぼ位置します。
6.手術手技の違い
共通しているところ

- 頭蓋骨に穴をあけて、硬膜を切開するまでは同じです
- ドレーンを挿入した後、糸針で固定します
- 閉創も同じです
穿頭洗浄術の手技

- 硬膜を十字切開すると、溜まっている血液が流出します
- 血腫腔にドレーンチューブを、後頭方向・頭頂方向・前頭方向・側頭方向などいろいろな方向に入れて血腫を吸引します(50mL〜100mL)
- 常温の生理食塩水で洗浄し、洗浄液が透明になったら洗浄終了です
- そのままドレーンを血腫腔(血腫を取り除いた後のすき間)に留置します
脳室ドレナージ術の手技

- 硬膜を十字切開した後、金属製の脳室穿刺針で脳室穿刺を行います
- ゆっくりと脳室の前角(モンロー孔)に向けて穿刺します
- 脳室に入ったかどうかは、穿刺針の内筒を抜いたときに血性髄液が出てくることで分かります
- 金属製の穿刺針を、軟らかい脳室チューブに置換します。ゆっくり挿入していくと、穿刺針の通った痕に沿って脳室に入り、チューブ内に血性の髄液が流出してきます
必要な診療材料・器械の違い

穿頭洗浄術と脳室ドレナージ術では、必要な器械と診療材料が少し違います。
穿頭洗浄術では、血腫を吸引し、洗浄するため、注射器が多めに必要になります。
脳室ドレナージ術では、脳室に穿刺を行うため、金属の脳室穿刺針が必要になります。
補足:脳脊髄液の循環
脳脊髄液は外傷などから脳と脊髄を保護しており、おもに脳室内の脈絡叢でつくられます。
循環経路は次のとおりです。

最後はくも膜下粒で吸収されます。
しかし、脳出血やくも膜下出血によって脳室内に出血した場合や、腫瘍や嚢胞などの脳室内病変で流れが閉塞した場合は、この生理的な循環が障害されます。その結果、脳室内に脳脊髄液が貯留し、頭蓋内圧亢進や水頭症が起こります。
まとめ

- 穿頭洗浄術の目的は、硬膜下に溜まった血腫を吸引して脳への圧迫を取り除くことです。頭蓋内圧のコントロールを必要としないため、閉鎖式ドレーンを使用します
- 脳室ドレナージ術の目的は、側脳室にドレーンを留置して頭蓋内圧をコントロールし、脳ヘルニアを予防することです。そのため、サイフォンの原理を用いた開放式ドレナージを行います
緊急で呼ばれたときは、まず「どちらの術式か」を確認し、サイフォンの付いた回路が必要かどうかを判断してください。それだけで、ドレーンの出し間違いはかなり防げます。
参考文献
- ブレインナーシング 2023年1号 特集「手術動画つき 必要な術後看護がみえてくる 脳神経外科の手術」(第39巻1号)

コメント